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成果を出すための「ビジネスセンス」の磨き方:中川政七商店から学ぶ成功の方程式


1.成果を出す人が身に着けている「ビジネスセンス」

以前公開した以下の投稿にて、ビジネスにおいて仕事の出来る人、成果を出す人というのは独自の「ビジネスセンス」を備えている、という説を提唱した。

筆者もそのような「ビジネスセンス」を身に着けるべく、そのために肝となると考えているアナロジー力(*1)トレーニングを定期的に行っている。

*1:アナロジー力とは、日本語にすると類推という意味で、ある事象から汎用性の高い要素を抽出して、他の事象でもその要素を当てはめる思考法のことである。
回転ずしのシステムはビール工場のベルトコンベヤーのぐるぐる回る仕組みから発想されたというのが、その例である。

アナロジー力トレーニングは、以下の2つのStepからなる。
Step 1.優良なビジネスモデルの成功要因を分析
Step 2.成功要因を抽象化し、他の事例に横展開してみる

今回は、ポーター賞(*2)受賞企業である中川政七商店を題材としたトレーニングを行ったので、その内容を記していきたい。
(*2:一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻が運営)

筆者のみならず、事業戦略担当者、商品・営業企画担当者など、ビジネスモデルの企画に携わるような方にとっても、

・良質なビジネスモデルをインプットする
・成功要因を抽象化した上で横展開する思考回路を鍛える

ための機会になれば幸いである。

2.演習2:中川政七商店はなぜ成功したのか?

2-1.概要

中川政七商店は、日本の伝統工芸をベースとした生活雑貨に特化した直営小売店舗を運営している企業である。

出所:中川政七商店HP

2008年に社長に就任した第13代中川政七氏(現会長)は、SPA業態(卸売りをせず、自社製品を自前の小売店で販売するスタイル)を推進し、2010年には社名を冠したブランド「中川政七商店」を発表するなどにより、15年間で売上を10倍以上にまで伸ばした実績がある。

出所:PENCIL by schoo

2-2.成功要因の考察

なぜ中川政七商店はこのように大きな成長を実現できているのか?
その要因を考察するにあたり、以下のビジネスモデルを構成する4つの要素をベースに検討した。(詳細は出所のリンク先を参照)

出所:ダイアモンドオンライン(グロービス学び放題より引用)

独断と偏見で成功要因を分解した結果、以下の2つの要素が成功要因であると考えている。

成功要因(1):伝統工芸技術の新たな需要先としてハイセンス和雑貨市場を発見(顧客価値の提供の観点)

成功要因(2):新たな需要創造のためSPA+コンサル型のユニークなバリューチェーンを構築(利益方程式、プロセス、経営資源の観点)

以下、それぞれについて説明する。

成功要因(1):伝統工芸技術の新たな需要先としてハイセンス和雑貨市場を発見

伝統工芸技術は、職人技を持つ人手で行う工数が多く、大量生産も難しいので高コストになりがちである。
ということで、伝統工芸技術の主な需要先は、これまで高コストに見合う高単価を受け入れてきてくれた美術工芸品というニッチ市場がメインだった。
そのような中、中川政七商店は伝統工芸技術の新たな需要先として、美術工芸品よりも大きな(マス向けの)ハイセンス和雑貨市場に可能性があるのではないかと注目した。(顧客価値の提供の観点)

ただし、ハイセンス和雑貨市場に伝統工芸技術を対応させるには以下の2点が必要だった。

1. ターゲット層にも受け入れられる価格帯で製造流通させられるコスト構造にすること
2. 手間のかかる伝統工芸の価値を顧客にしっかり伝えられる(単価を上げられる)販売体制を構築すること

成功要因(2):新たな需要創造のためSPA+コンサル型のユニークなバリューチェーンを構築(プロセス、経営資源の観点)

そこで中川政七商店は、以下のようにSPA+コンサル型のユニークなバリューチェーンを設計・構築することで、伝統工芸技術をハイセンス和雑貨市場に対応させることに成功した。

・SPA業態をとることにより、製造流通を最大限効率化しターゲット層にも受け入れられる価格帯を実現するとともに、小売・販売における価値訴求力も高めた
・また、伝統工芸技術メーカーは在庫管理、経営管理、商品マーケ戦略などに改善の余地があるところも少なくなく、経営改善コンサルティングを提供することで、需要に見合う商品を、需要に見合うコストで製造出来る体制に磨きをかけていった

2-3.方程式の抽出と横展開の思考実験

成長要因を抽出したところで、これらを他の事象でも活用出来るように抽象化していきたいと思う。

成功要因(1):伝統工芸技術の新たな需要先としてハイセンス和雑貨市場を発見
成功要因(2):新たな需要創造のためSPA+コンサル型のユニークなバリューチェーンを構築

→これらを抽象化すると・・・

方程式(1):ニッチ技術の新たな需要先を発見し、
方程式(2):ニッチ技術を新たな需要先に適用させるためのユニークなバリューチェーンを構築
と読み替えることが出来る。

このように抽象化した上で、これらの方程式に当てはまる他の事例がないか考えてみたいと思う。

BtoC業界で考えると、どうしても中川政七商店と似たようなビジネスしか思いつかないので、BtoB業界という縛りで考えてみることにする。

そうすると、ニッチ技術も含めて製造技術から需要先までサプライチェーンが幅広く見えている業種として商社が思いつく。
商社であれば、成功要因(1)の部分の新たな需要先に対する先見性や、需要を満たすためのバリューチェーンを構築力に優れている気がするので、中川政七商店のような事例が存在するかもしれない。

そう考えてみると、以前関わった専門商社をクライアントとする案件が頭によぎった。
そのクライアントは、グローバルに商社ビジネスを展開しており、ニッチだが高い技術力を持つ某日本企業の技術が海外でも通用するはずだということで目をつけた。
クライアントはその企業を買収し、その企業のニッチ技術をベースに海外市場のニーズに対応する製品・サービスを企画し、それを海外で製造流通出来るバリューチェーンを構築するといった取組を行った。

市場の先見性とビジネスモデル構築力を武器にニッチ技術の需要先を広げていくという観点で見ると、このクライアントはBtoB界の中川政七商店と言えるかもしれない。

3.最後に

前回の丸亀製麺を題材とした際にも感じたことだが、この取組はやはり成功要因をどう捉えるか次第で、そこから抽出される成功方程式の品質が大きく左右されると思う。

そして、今回のトレーニングを通じて、筆者の成功要因分析力はまだ道半ばであるとも感じる。(もっと良い分析の切り口がある気がしてならない)

一方で、その成功要因分析力を向上させるにあたって、一度抽象化して他に横展開出来るものを考えるというこのトレーニングの思考プロセスは非常に有用であると感じている。

なぜならば、抽象化する際に、枝葉をそぎ落として、幹となる成功要因について考えざるを得ないからだ。

なので、このトレーニングを行う際も、一度中川政七商店という具体例で成功要因を考えた後に、それを抽象化して横展開事例を検討した後に、成功要因の捉え方をupdateした場面が何度かあり、そのプロセスの中でビジネス分析力が鍛えられている実感があった。

ということで、現時点ではまだ分析力不足の部分がありつつも、その分析力を強化する意味も込めて、今後も定期的にこの取組を継続していきたい。

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