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成果を出すための「ビジネスセンス」の磨き方:丸亀製麺から学ぶ成功の方程式


1.成果を出す人が身に着けている「ビジネスセンス」

1-1.ビジネスセンスとは

みなさんの職場における、「成果を出している人」や「仕事の出来る人」をイメージして頂きたい。
彼ら・彼女らはあまり経験のないような馴染みのない状況においても、比較的すぐに突破口を見つけられたりしていないだろうか?

例えば、新規営業先開拓において、一度商談を行っただけで、出来る上司なら「この顧客を落とすポイントは●●だと思うから、次回は●●を準備した方が良いかもね」といったようなアドバイスをくれたりするのではないだろうか。

筆者は戦略コンサルティングを生業としているが、出来る上司というのは、知見があまりない領域の案件であっても、最低限の情報をインプットしただけで「このビジネスはここが肝だから、このような点を重点的に検討すると良い」といったアドバイスをくれたりする。

このように、あまり馴染みのない状況というのは他の人と変わらないはずなのに、短時間で突破口を見つけられる人がいる。
筆者はこのような人を「ビジネスセンス」のある人と言うのだろうな、と思っている。

本稿ではこの「ビジネスセンス」を取り扱いたいと思っているが、その前に本稿において「ビジネスセンス」をどう定義しているのかを記しておきたい。


ビジネスセンスは、以下のように分解・解釈出来る。

ビジネス=価値提供

センス=独自性のある感覚

つまり、価値を出す(ビジネス上の目的を達成する)ための必要要素に関する独自性のある考えがほぼ感覚的に導き出せる力、と定義している

1-2.差のつく成果をあげる強力な武器になる

みなさんも想像に難くないことだと思うが、「ビジネスセンス」が身に着けられれば、周りと差のつく成果を上げることにつながる。

例えば、事業戦略担当や営業/商品企画担当の方であれば、

「既存の顧客層はジリ貧なので、新たな市場開拓余地を考えてほしい」

といった難易度高のお題を投げかけられることもあるだろう。
筆者のような戦略コンサル会社にも、同様の状況の企業から「社内だけで検討しても、どうも既存の延長線上のアイデアしか出ないので、是非力を貸してほしい」といったご要望を頂くことがある。

このような案件は、ボトムアップ的に淡々と論理を積み上げていけば答えが出せるような案件ではなく、一定の創造性も必要とされるので難易度が高い。
一方で、論理的に積み上げていくだけであれば、正直他のコンサルファーム/コンサルタントとの差も出しにくいため、このような案件は周りと差がつく成果を上げる絶好のチャンスでもあるのだ。

1-3.ビジネスセンスの磨き方を考えてみた

では、周りと差がつく成果を生むための「ビジネスセンス」を磨くにはどうしたら良いのだろうか?

筆者はその鍵となるのが「アナロジー力」だと考えている。
アナロジーとは、日本語にすると類推という意味で、ある事象から汎用性の高い要素を抽出して、他の事象でもその要素を当てはめる思考法のことである。
回転ずしのシステムはビール工場のベルトコンベヤーのぐるぐる回る仕組みから発想されたというのが、その例である。

「ビジネスセンス」がある人というのは、得た知識や経験を未処理のまま頭に放り込むのではなく、それらを自分なりの視点で抽象化して、他の事象にも当てはめられるような準備を整えた上で頭の中に整理しているのではないかと考えている。
そうすることで、一見過去の延長線上では解決が難しい課題に直面したとしても、過去に得た知識・経験から構造が似たものをすぐに引っ張り出して、突破口を提案出来るのではないだろうか。

という説が正しいとすると、高めるべきは「アナロジー力」である。
アナロジー力を以下のように分解した結果、やるべきことは良質なビジネスモデルをたくさん分析して、そこから抽象化した成功の方程式を頭の中にたくさんストックすることであると考える。

アナロジー力
 = 汎用性ある成功方程式のストック量
 = (1)知っている良質なビジネスモデルの数 × (2)そこから成功の方程式を抽出する抽象化能力

ということで、まずは手始めにポーター賞(*1)受賞事業である、丸亀製麺を題材に分析を始めてみることにした。
(*1:一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻が運営)

2.演習1:丸亀製麺はなぜ成功したのか?

2-1.概要

丸亀製麺は全国規模のうどんチェーン店である。
香川の讃岐うどんの製麺所をモデルに、全国規模にも関わらずセントラルキッチンを持たず全ての店舗で製麺から手がけ、出来立て・茹でたてを提供することにこだわっている。

全国規模の大手うどんチェーンとしては、はなまるうどんが上げられるが、↓の通り丸亀製麺が圧勝状態である。


出所:ダイアモンドチェーンストア

2-2.成功要因の考察

なぜ丸亀製麺はうどんチェーン業界でトップ独走を実現出来ているのか?
その要因を考察するにあたり、以下のビジネスモデルを構成する4つの要素をベースに検討した。(詳細は出所のリンク先を参照)


出所:ダイアモンドオンライン(グロービス学び放題より引用

独断と偏見で成功要因を分解した結果、以下の2つの要素が成功要因であると考えている。

・成功要因(1):ファストフードの価格範囲内において、新たな高付加価値うどん市場を発見・創出したこと(顧客価値の提供、利益方程式の観点)
・成功要因(2):全国規模で出来立てのおいしさを実現する独自システムを作ったこと(プロセス、経営資源の観点)

以下、それぞれについて説明する。

成功要因(1):ファストフードの価格範囲内において、新たな高付加価値うどん市場を発見・創出したこと(顧客価値の提供、利益方程式の観点)

丸亀製麺のコンセプトは香川の讃岐うどんの製麺所で味わえる出来立て・茹でたてのおいしさを全国規模で提供することである。
そのために各店舗で製麺から行うので、製麺設備や茹でたてを提供するための設備等を各店舗に設置する設備投資のコストがかかる。(多くの外食チェーンはセントラルキッチンでまとめて調理して、各店舗まで配送し、各店舗では最低限の調理を行うことが多い)
また、それらを使いこなし高品質のうどんを作れる人材に対しても、育成から実際のオペレーションまでコストがかかる。
このようにセントラルキッチンのうどんチェーンに比べて高コスト構造=高単価になることが想定される。

このような単価増が消費者に受け入れられるのか、という点がポイントになる。

丸亀製麺の大ヒットを見ていると、それは明らかに受け入れられたと見て良いだろう。
おそらく、競合うどんチェーンとの比較の中で、このコンセプトが優位性を持つこともあっただろうが、丸亀製麺の成長の規模感を見ているとうどん以外のファストフードからも客を奪って成長している部分の貢献度が大きい可能性があると考えている。

おそらく、「昼食をさくっと安く済ませたいけど、ちゃんとおいしいところが良い」みたいなニーズを持っているファストフード顧客層の心を広く捉えたのではないだろうか。

実は、丸亀製麺の平均客単価は570円(出所:2020年頃のデータ)であるのに対して、確かにうどんチェーンの競合であるはなまるうどんの平均客単価は450円前後(出所:2018年頃のデータ)と、丸亀製麵の方が高くなっている可能性はあるものの、ファストフードの平均客単価は600~800円(昼マックのセット価格を参照)なので、ファストフード界で見ると丸亀製麺の客単価はまだまだ妥当な価格感なのである。

これは、うどんの原価がそもそも安いということを起点として、そこに高付加価値化するための設備・手間賃がのったところで、ファストフード界ではまだ戦える水準に収められたし、手間とコストをかけて高付加価値化したおかげで、ファストフード界の別業種から客を奪うことが出来たということである。

この「ファストフード界における高付加価値うどん市場を見つけ出した」という点が成功要因の1つであると考えている。

成功要因(2):全国規模で出来立てのおいしさを実現する独自システムを作ったこと(プロセス、経営資源の観点)

また、香川の讃岐うどんの製麺所のような茹でたて・出来立ての品質を全国規模で提供するオペレーションを組むことは容易ではない。

それを、以下のような複数の独自の企業活動を組み合わせることで模倣困難性の高い企業活動システムを作り上げ、実現し成果を上げている。

・直営運営:理念からオペレーションまでをしっかり現場に浸透させるため国内店舗は全て直営で運営
・長期育成:短期で卒業してしまいがちな学生よりは、中高年の方等の長期で働いてくれる可能性が高い方を採用し長い目で育成
・麺匠制度:品質の達人が定期的に各店舗の品質をチェック
・システム化の取捨選択:バックオフィスは勿論、品質に関わる部分も出来るところはシステム化を進めることで、チェーンの規模のメリットを活かす(AI需要予測の開発、等)

2-3.方程式の抽出と横展開の思考実験

丸亀製麺の主な成功要因(1)(2)を他の事象でも活用出来るように抽象化していきたいと思う。

成功要因(1):ファストフードの価格範囲内において、新たな高付加価値うどん市場を発見・創出したこと(顧客価値の提供、利益方程式の観点)

→これを抽象化すると・・・

原価が安い原材料をベースにして、敢えて手間とコストをかけることで競合が提供しないような付加価値を加えられる市場を見つけること

といった具合に抽象化出来る。
そして、この法則に当てはまりそうなアイデアを考えてみることにする。

例えば、最近、健康志向の高まりにより代替スイーツがその頭角を表しつつある。
(代替スイーツとは、ヴィーガン対応やカロリーカット等を目的として、卵やバターといった動物性原料を大豆といった植物性原料の素材で代替したようなスイーツのことである)
もし、うまく大豆等の活用によりスイーツの原材料費を通常のスイーツより抑えることが出来れば、通常の大手スイーツチェーンがセントラルキッチン化でオペレーションの部分でコストカットのために妥協している部分を、敢えて手間とコストをかけて店頭で行うことで「焼きたて・出来立てによるより豊かな味わいや香り」や「保存料不使用」といった付加価値を付与し、顧客の心を掴むことが出来ないだろうか。

勿論、その実現に向けて、成功要因(2)に倣って、全て直営店方式での店舗展開で、長期的な視点で採用・育成を考えていく経営スタイルとする。
(ちなみに、家族にこのアイデアを話してみたが、あまり反応は良くなかった・・・)

3.センス向上に向けて継続的な演習と実践が必要

という風に、評価されているビジネスモデルから①成功要因を抽出し、②その要因を抽象化し他事象へ横展開するという思考実験を行ってみたが、①成功要因の抽出の角度や視点がかなり重要なような気がする。
今回のケースでは、筆者なりに肝はここなんじゃないかというポイントを抽出したが、そもそもここのポイントがずれていたら、②の価値も薄まる。
(実際に、家族の反応もイマイチだった・・・)

ここら辺のコツを自分なりにつかむためにも、今後も継続的にこのような演習を行うと同時に、実際に業務の中でもこの演習でストックした方程式の活用を試みながら、実務的な価値が出るように演習の方向性をチューニングしていきたいと思う。


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