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オリエンタル・ヴィーガン

セルフ人体実験として期間(1ヶ月)限定ヴィーガン生活をしていたことがある。タマネギを炒めながら、そんなことを思い出した。

5年ほど前だろうか。仲間のヴィーガンに誘われてヴィーガン・パーティーなるものに参加したのだが、そこで食べた「大豆ミートのハンバーグ」に僕は違和感をおぼえた。挽肉で作るハンバーグを模した料理らしく、妙な歯応えだ。ソースに負けて大豆の風味が消えている。「肉を食べたいけれど、食べちゃいけないから大豆で代わりのものを作った」ようにしか受け取ることができない。野菜を食べたいなら、大豆で料理をしたいなら、もっと素材の特徴を活かしたレシピがあるんじゃないかな。

帰りの車のなか、思い切ってその話をしたとろ、運転していた某ヴィーガン・インフルエンサーが食いついた。
「私もおんなじ違和感があって、それで実は、ヴィーガンやめたの」
そうなのか。ヴィーガンをやめちゃったんだね。そもそも君はヴィーガンではないヴィーガン・インフルエンサーだったんだね。素直(?)なヴィーガン(?)に好感を抱き、それなら(?)と、前々から誘われていたヴィーガン生活を僕も始めてみることにした。

当時、食事が好きなパートナーと共に暮らしており、またコロナ禍ということもあって在宅時間が長かったため料理にハマっていた。小麦粉を炒めてホワイトソースを作ったり、野菜の切れ端を煮詰めてブロード(ダシ)にしたりと少々手間のかかることにも手を出していた。そんななか始まったヴィーガン生活で最も苦労したのが「タマネギを食べられないこと」だ。

え、ヴィーガンってタマネギ食べてOKでしょ?そう、その通り。僕の言葉選びが間違っていた。僕のヴィーガン仲間は、ほとんどがオリエンタル・ヴィーガンであり、彼らに誘われた僕が取り組んだのもそのオリエンタル・ヴィーガンなのだ。ベジタリアンの種類については、例えばこのウェブサイトに詳しく記載されている。

ヴィーガンとはベジタリアンの中でも特に厳しいルールに基づくものだが、そのヴィーガンのルールに加えて五葷(ごくん)も摂取してはいけないというのがオリエンタル・ヴィーガンだ。五葷とは、精進料理などで避けるべきとされているニンニク、タマネギ、ネギ、ニラ、ラッキョウなどのこと。要するに、オリエンタル・ヴィーガンはめっちゃ厳しいのだ。

ニラやラッキョウは意図的に避けられるとしても、タマネギはかなり一般的な食材であり、外食で避けるのはかなり難しい。なので、期間中は基本的に全食自炊スタイルで生活していた。仕事の都合などでやむを得ず外食する際には、セルフ人体実験中の身であることを伝えたうえで、サラダを食べるなどして乗り切っていた。突然サムギョプサルを食べに行くことになったときなど、食べられるメニューが本当に見当たらず、ひたすらサンチュをかじっていた覚えがある。

さて、そんな事情もあってとにかく自炊をしなければいけない。おかゆ、サラダ、豆腐なんかで結構やっていけるものだが、やっぱりときどき味の濃いものを食べたくなる。肉、魚、卵、バターなどがNGでも、ニンニクを使えば強い味わいの料理ができるし、タマネギをじっくりいためれば甘みと奥行きを作ることができる。当時、特にインドカレー作りに凝っていたのだがこれが全然美味しく作れない。ニンニクとタマネギと肉を使わずに、どうやってコクを出せばいいのかがまるでわからない。ニンニク、タマネギを使えないことがこんなに窮屈だとは知らなかった。

ネットで色々と調べていると、「ヒング」というスパイスがどうやらよさそうだ。しかし、「腐った鯖」のような香りだとか「悪魔の糞」という異名があるとかいう情報にビビってしまい手を出せなかった。

そこで、菜食インドレストラン「ナタラジ」へ行って(※僕の行った銀座店は閉店してしまった)レシピをリサーチすることにした。ここでハッキリとした収穫があった。ナスだ。ナスが美味い。どうやら素揚げしているようで、染み出す油がトロミと重たさを作り出している。以降、ナスの素揚げを軸にしたカレー作りに注力するようになり、オリエンタル・ヴィーガン自炊に希望を見出すことができるようになった。

以上、たったいまタマネギを炒めながら思い出したこと。

p.s. そういえば、ヴィーガン期間中は酒を一切飲まなかった。日常的に飲酒する僕にとっては、菜食ウンヌン以前に酒を飲まないことの影響が大きすぎて、セルフ人体実験の影響を適切に比較検証することができなかった。ヴィーガンは酒を飲んでも構わない、ということは後になって知った。

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