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【 読書感想文 】『 なしくずしの死 』ペシニズム・悲劇・幻想・汚物のごった煮
言葉がでてこない。
感想がおもいつかない。
なんか、ドえらいものを読んだという、ごっつい衝撃は、体の芯にずんと響いた。
言葉がでない、感想がおもいつかない、と書きながらもnoteを書く。
人間の不合理さ、不条理さ。
そんな人間って、なんだろうと考えつづけ、煮こんだ結果。
陽光がとどかず鬱蒼としたうす暗い森にある腐葉土から作者のアイディアが勃起し、一冊の本へと変貌したような印象をうけた。
結末だけは、おぼえている小説はいくつかある。
いつまでも、忘れがたく、私の性格の一部と化した小説もある。
この小説のありとあらゆる文章が、おれの心の割れめにしみこんだ。
カラスにつつかれた果実のように腐りきったハートに心臓マッサージをほどこすような暴力的な文体。
書かれているすべての文章が忘れがたいのだ。
発売されたとうじは、フランスの文法破壊ダ、と評判をよんだそうだ。
日本語で読むと、そこまで文法が破壊されているようには思わない。
・・・・・・がおおいな、ぐらいしか感じなかった。
忘れがたい強烈なインパクトは、・・・・・・からくるものなのか、否、ノンだろう。
・・・・・・を多用というよりも、句読点のかわりに・・・・・・をつかっても白い陶器にへばりつく尿石のような、この本がもつねちっこい文体を書けないだろう。
この小説の魅力は、なんであろうか。
人生は、最高に糞ったれさといいたくなる徹底的なペジニズム。
オギャーッと声をあげた瞬間に組みこまれる社会のピラミッドの枠組み。
目をそむけたくなるような人間の怠惰。
市民革命をなしとげた熱狂。
世話になった人間をなんでもないような顔で冷静にドブに叩きこむ残酷さ。
たまねぎの皮をむくように、じわじわりと袋小路におしこめられるような死。
夢かまぼろしか、薬酒に酔った人間がみる白昼夢のような光景。
読んでいると、フランスの小路のうんち・フランス女性のスカートのうちがんわ・フランス男性の肉食な汗のにおいが文章からわきんたつ。
(セリーヌの文章は、ところどころ、んが埋めこまれる)
あるとあらゆる人間のうす汚い部分が描きだされ、一冊の本に凝縮されている。
人間の内面を書く小説は、サルトルの『 嘔吐 』で完成された、と開高健は書いている。
それほどに、サルトルに魅せられていた開高健が、セリーヌに先にであっていたら、サルトルにのめりこむことはなかったと記述していたように記憶している。
サルトルにほれこみ、フランスにまで会いにいった開高健をサルトルからひっぺがした剛腕ともいえる魔力をもつセリーヌ。
『 なしくずしの死 』の最後で、金持ちはクソったれだ、信用するなと書かれている。
セリーヌは、反ユダヤ主義の顔をもつ。
小説と、作家の主義はわけて考えるべきか、作品と作家をまとめて評価するべきか、意見のわかれるところだろう。
反ユダヤ主義の旗頭として戦時中に書いた文章は、いまだに再販されず、またセリーヌの嫁さんが翻訳を許可していないと解説に書かれていた。
日本語では翻訳され読むことができる。
反ユダヤ主義であった作家セリーヌの小説は、資本主義が世界をぎゅうじるいま、闇のかなたへと葬られるか。
それは、ない、と強くおもう。
金持ちを憎むセリーヌの精神は、みゃくみゃくと市民のなかに息づいているからだ。