氷の砂漠

## 第1章：凍てつく風

白い砂塵が舞い上がる中、キャラ・サイードは防寒スーツの温度計を確認した。マイナス80度。タイタンの極地帯では、メタンの雪が氷の砂丘を形成していた。

「生命の鍵は、このメタン循環にある」

彼女の祖母の言葉が頭の中で反響する。タイタンの先住民族であるフロストノマドは、この極寒の砂漠で何世代にもわたって生き延びてきた。彼らは体内に特殊な微生物を共生させ、メタンを代謝エネルギーとして利用する術を会得していた。

その秘密を握るフロストノマドは、地球連邦と土星同盟の両方から、執拗なアプローチを受けていた。エネルギー資源の枯渇に直面する両勢力にとって、メタン利用の技術は救世主となりうるものだった。

## 第2章：継承の儀式

キャラは今夜、フロストノマドの次期指導者として継承の儀式に臨もうとしていた。彼女の体内では、既に特殊な微生物が活発に活動している。しかし、それは単なる生存のための能力ではなかった。

微生物との共生は、タイタンの生態系全体を感知する能力も与えていた。広大な氷の砂漠の下で、無数のメタン河川が脈動しているのを感じることができた。そして、その生態系のバランスが、今、重大な危機に瀕していることも。

## 第3章：陰謀の予感

儀式の準備をする中、キャラは不穏な情報を察知した。地球連邦のスパイが、遺伝子組み換え微生物をタイタンの生態系に放出しようとしているという。人工的な微生物によって、メタンの代謝プロセスを支配下に置こうとする計画だった。

「これが成功すれば、フロストノマドの存在意義は失われる」

キャラは氷の砂丘の上に立ち、風に乗って運ばれてくる情報を解読した。遺伝子組み換え微生物の放出は、既に始まっていた。

## 第4章：選択

キャラには二つの選択肢があった。

一つは、古来からの秘術を使い、タイタンの生態系そのものを変容させること。フロストノマドの微生物を進化させ、人工微生物への耐性を持たせるのだ。しかし、それは取り返しのつかない変化をもたらすかもしれない。

もう一つは、地球連邦との直接対話を試みること。タイタンの生態系の重要性を説き、共存の道を探るのだ。

夜が更けていく。メタンの雪が、静かに氷の砂丘を覆っていく。キャラは決断を迫られていた。彼女の選択が、タイタンの、そして人類の未来を左右することになる。