同級生と芝公園駅に向かいながら、僕は東京タワーを変顔で見上げた
高校に入学して間もない春、同じサッカー部の同期が練習中に大怪我して入院することになった。
まだまだ、隣にいる同期が良いやつなのか、はたまた相性が合わないやつなのか、探り合っているような時期である。
そんな関係性だったけれど、誰かしらの発案でとにかく病院にお見舞いに行こうぜという話になり、10人近くで学校帰りにゾロゾロ赴くことになった。
場所は、御成門にある病院だった。
地下鉄で向かう途中、お互いを探り合うような会話が続いた。
僕は人見知りで新しい環境に馴染むまで時間がかかるタイプなので、基本的には聞き役に徹していた。
2〜3人、よく喋るタイプの人間がいて、そいつらが中心になって大きな声で話していた。
そいつらが面白そうに話をすると、みんなは合わせて笑っていた。
僕も同じように、みんなに合わせて笑った。
しかし、困ったことに気づいてしまった。
それらの話は、全く面白くなかったのだ。
むしろ、聞いているのが苦痛ですらあった。
病院に向かう道中、「ごめん、やっぱりオレ用事思い出したから帰るわ」と何度も言いそうになったけれど、そんなこと言い出せるような大胆さを持ち合わせていなかったので、仕方なく黙って着いて行った。
怪我をした同期は、大きな大学病院に入院していた。
病室に着くと、足を固定されてベッドに横たわっていた。
しばらく談笑してから、同期の中でよく喋る2〜3人の中でも、最もうるさかったやつが、「とっておきのお見舞いの品がある」と言って、ビニール袋を渡した。
中身は、エロ本だった。
怪我をした同期が中身を見てびっくりした様子を見せると、病室内は大爆笑だった。
みんなものすごく笑っていた。
しかし、また僕は気づいてしまった。
何が面白いのか、全くわからなかったのだ。
いや、僕も割と平凡な高校生だったので、そういうくだらない、馬鹿馬鹿しいノリの話は嫌いじゃなかった。
しかし、この時ばかりは、糞つまらなかった。
もう早く帰りたい、と思いながらも、僕は周りに合わせて爆笑しているフリをした。
すると、僕は別の異変に気付いた。
顔が引き攣ってしまって、うまく笑えないのだ。
たぶん、いま僕は変顔をしてしまっている。
無理やり笑おうとしていることを悟られないように、ノリが悪いやつだと思われないように、内心焦り続けていた。
病室を出たときには夕方だった。
帰りは、芝公園駅に向かってみんなで歩いた。
歩きながら、病室での出来事がみんなの距離を縮めたのか、全員の笑い声がより大きくなっている。
行きの電車の中ではあまり喋っていなかったやつが生き生きとしている様子を見て、ひょっとしたらうまく溶け込めていないのは自分だけかと思い始める。
気づけば、集団の最後尾を歩いていた。
みんなの笑い声に合わせてみようとすればするほど、僕の顔はさらに引き攣っていた。
この部活の仲間たちと過ごすこれからの3年間、僕は上手に笑うことができるようになるのだろうか。
その不安は杞憂に終わる未来が待っていたものの、当時の僕はとても心細い気持ちで歩きながら、変顔で夕暮れ時の東京タワーを見上げていた。
フェイクフルワンダーランド / きのこ帝国
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