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煙が目にしみる

車をガレージに入れ玄関へ
台所の外から いい香りが漂ってくる
換気扇の排気口に
道行く車のライトが当たると
うっすら白い
焼いてるな…… とひとこと呟きながら
ドアをあける

「なんか機嫌がいいね」 
と からかってみる

「別に何でもないよ…」
いたって普通の 拍子抜けした声

「帰る時間わかってた?」
一応挨拶にならって聞いてみる

「今日木曜日でしょ  遅くなる電話が無いから  いつも通りだと思って」
ちょっと得意な顔は見せず
コンロを覗いている

「ひょっとして節分が近いから?」
こっちだってバカじゃないから
わかるよと得意気に聞いてみる

「7尾200円だったよ」
元公設市場のスーパーに行ったなと
一瞬で伝わる

「普通 (これ いくらしたか当ててみて)って聞くところじゃないの?」
そんな匂わせをする人じゃないのを
知っていてフッてみる

「今日は生のより  一夜干しが目立ってたから……」
グリルから離れずの背中が答える…

「何か気分を変えたいと思ってたから丁度良かったよ」
言いづらいことは又今度
もう少し落ち着いてから言おう

「手紙が来てたよ テーブルに置いてあるから…」
なんだ もう知れてしまっていたか…
言う手間が省けて気が軽くなる

「お酒あと少しだけ残ってたっけ」
冷蔵庫から四合瓶を取り出す

「一合残ってる?新しいのは買わなかったよ」
グリルを一旦引き出して
焼け具合を確認…

「しばらくは控えろって事だろうね」
本当は有難うとだけ
言ったほうがいい

「見て すごいジューシーよ
グリルのトレー  脂が こんなに沢山    でも丸々したままよ」
掃除が大変という気持ちを伏せて
わざと笑って見せている

「このカボチャの煮物つけていい?」
珍しくおたまを持ち給仕してみる

「底のほうにゴボウと蒟蒻が
入ってるから」
茶碗にご飯をよそおいながら
背中でする指図

「少しだけだから燗にしなくていいよ」
その声を受ける背中が
無言で頷く

「はい いただきましょう」
箸と箸置きを手渡し…
こちら見る まなこが光っている

「この丸干し当たりだね」
本当はお前が当たりだと思っています

「あのお魚屋さん  市場の時から
知ってるおばさんよ」
魚はそこでしか買わない…
知ってるでしょ  と いぶかしがる顔

「お前も ひとくちどう?」
機嫌をとるつもりなど無いけど
聞いてみる

「あら珍しいこと」
あわてて箸を置き盃を取りに…

「当たりだね」
もう一度念押して言ってみる

「 こんないい当たり もう次は
無いかもよ」
こちらの心が
ちゃんと読めているのか
裏の意味含まない答えだろうか

「無いだろうね」

このなん十年を思いながら

一献を捧げた……




#今日の晩酌
#ほろ酔い文学

#節分  
#イワシ
#丸干

#煙が目にしみる















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