新規事業責任者という”最高の地獄”で働く楽しさを紹介します
ランサーズ株式会社の新規事業として、メタバースで学べる仕事連動型デジタルスキル教育サービス「ランサーズデジタルアカデミー(Lancers Digital Academy)」の事業責任者をしています。奥脇と申します( @okuwaki_m )
僕のキャリアとしては、2社起業したり、色々な事業立ち上げに携わってきたり、とにかく”事業作り”の領域で働くことが多いです。
これまでたくさんの商品やサービスに関わってきました。
色々なサービスや事業に関わってきた中で、毎回思うことがあります。
新規事業や起業で責任者として事業立ち上げをやるのは、”最高の地獄”で働くことになるということです。
今回は、従業員数100~500人くらいの規模の企業で事業立ち上げをするあたりの"最高の地獄"の話をします。
■最高なこと
社長や役員の直轄になることが多いので、経営者の思考に触れることができる
会社の資金やリソースを活用して事業開発できるので、個人的なリスク低く挑戦できる(起業だと個人リスクが高い。特にリビングデッドになるとしんどい)
現場業務を一通り自分でやるので、さまざまな専門的なスキルや知見が身につく
本気で競合サービスや市場調査をするので、狙う領域のビジネスの解像度が超高まる
失敗やエラーの連続が起きるので、 失敗耐性がつき鋼の心ができる(いちいち落ち込んでられない)
自分の判断で物事の動きを作れるので、仕事に工夫の余地が大きい
施策が当たった場合、成長率が数百~数千パーセントとか出るので、気持ち良い
チームメンバー同士の「やってやろうぜ感」が出やすく、みんなで切磋琢磨できる
事業立ち上げ経験者はどの企業でも求められがちなので、自分の市場価値に困ることがなくなる
新規事業はツッコミどころがたくさんあることが多いので、色々な人が意見を出してくれるので参考になる
■地獄なこと
現場業務を自分で出来るレベルで一通りわかっている必要がある(デザインとマーケティングとセールスは絶対で、システムもエンジニアと会話できるくらいは必要)
会社の資金やリソースを活用して事業開発するので、成果が出ないと白い目で見られる(会社の懇親会とかあるとしんどい)
失敗やエラーの連続が起きるので、「あれ?何やってもうまくいかないんだけど」と追い込まれる
「自分が失敗したら、このサービス終わるじゃん」というヒリヒリ感とプレッシャー
毎週、多い時は毎日レベルでやることに変化が起きるので、働き方が予測ができない
施策がハズレた場合、誰からの反応もなく、無風で売上ゼロもあるので、悲しい
99%の確率で事業計画通りにいかないので、経営陣からは日々詰められる
ある程度の期間が立つと、疲弊するメンバーが出ることがあるので、悲しい
既存制度が新規事業にマッチしないことがあり、動きにくいことがある
新規事業はツッコミどころがたくさんあることが多いので、色々な人から意見がくるので、自分の信念を持ってないとブレブレになってしまう
このように、"最高な側面"と"地獄な側面"は表裏一体です。
新規事業をやるなら、常に迫り来る目先の業務に追い込まれながら、長期的な事業の明るいビジョンをイメージし続けられないと精神がもたないです。
ドMでポジティブな人じゃないとやってられないと思いますね。
僕は新規事業でチームビルディングするときに、絶対にメンバーに宣言することがあります。
「残念ながら我々に平穏な毎日が来ることはありません。その代わり、エキサイティングで心が躍る毎日を一緒に戦っていきましょう。」
ランサーズでもそんな宣言をして、いま僕は教育領域の新規事業としてランサーズデジタルアカデミーの責任者をしています。
この後は、実際にランサーズデジタルアカデミーをどのように立ち上げたのか話します。
■デザインスクール事業からの転職
僕がランサーズに入社したのは2021年9月1日です。
ランサーズ取締役の曽根さんからビズリーチ経由で「ランサーズで教育事業をやろうとしているから一緒にやらないか」と声をかけていただきました。
それまで僕は、株式会社divという会社で”TECH CAMP デザイナー転職”という"最短10週間でWebデザイナーになれる転職保証型デザインスクール"の事業責任者をしていました。
声をかけられて、「ランサーズが教育事業やるならば、フリーランスの仕事を出口として用意できるだろうし、ちょっと面白そう」と興味を抱き、面接を受けるに至ります。
面接だったのに、僕は5分くらいでサクッと自己紹介しただけ。
その後は曽根さんがホワイトボードにランサーズの構想やビジョンを書き始めて、熱く語ってきたので驚きました。(ランサーズは会議室の壁がホワイトボードになっています)
驚きと同時に、「ランサーズが教育事業をやることで、とても多くの人々や社会にインパクトを与えることができそう」というイメージが固まり、ランサーズに入社することにしました。
この頃、僕がハイブリットワークとして経営している自分の会社は数千万円の売上になっていたので、もう会社に勤めなくてもいいかなと思っていましたが、曽根さんの説明を聞いて、ランサーズが目指すビジョンを一緒に実現したいと思ったんです。
■"最高の地獄"が始まった
教育を通じて成し遂げたいビジョンはあるが、具体的にどのような教育事業をやるかは決まっていない状態です。
でも早速「今年の11月、ランサーズの戦略発表会という対外的なイベントがあるので、そこで大々的に教育事業の発表をする。それまでに事業の内容を決めよう」というミッションが与えられました。
この時は9月です。
「11月って!あと2ヶ月ちょいですけど!まだランサーズのことも全然わかってないんですけど!」心では思いながら、このプレッシャーにワクワクしました。
高速で経営陣とのディスカッションや、社内のステークホルダーと顔合わせをさせてもらい、「ランサーズが教育事業をやるなら、やっぱりフリーランスの"仕事につながる"を強みにしたいよね」と着地しました。
実はランサーズデジタルアカデミー発足の前に、ランサーズが開催したShopify講座というものがありました。
その参加者からは「時間単価2,000円のWeb制作者」から「時間単価7,000円のECサイト制作者」になったという事例も生まれていました。
僕はこの事例を聞いて、この事例に再現性を持たせて規模を大きくするのが良さそうだと思いました。
受講生に需要があるスキルをしっかり身につけてもらって、高単価で稼げる人材を生み出す。
となると、規模が大きくなっても再現性を持たせるようにするために「何のスキルを教えるか」がとても重要になります。
そこで、ランサーズプラットフォームや同業他社も含めて日本で流通している業務委託案件を調べ尽くし、今まさに需要があり、これからも需要が拡大していくであろう”ニッチで尖ったデジタルスキル”を習得できる教育にすることに決めました。
こうして「仕事につながる最先端デジタルスキル教育サービス」の土台ができあがっていきます。
■サービスの中身をひとつずつ具体化していく
▼仕事につながる
スキル習得したことを証明するデジタルバッジの発行と、仕事獲得のための仕事紹介コンシェルジュサービスをつけることで、受講後に仕事獲得するまでの流れをつくる。
▼最先端デジタルスキル
今もこれからも需要が拡大していくデジタルスキルを教材にする。基礎レベルのスキルではなく、実務の最前線で使われる生々しいスキルとノウハウを習得できるようにする。
ここまでを決めました。次はどのようにサービス提供するかを決める段階になります。
教えるのは、仕事につながる実践的な内容になります。PCを触ったことがない方は対象にせず、最低限のITリテラシーがある方を対象とします。
ググってすぐにわかることを教えるわけではないので、ゼロから手取り足取り教えることはしない方針にしました。
仕事につながるというコンセプトだからこそ、壁にぶつかったときに自分の頭で考えることができなかったり、乗り越えられない卒業生が輩出されてしまうのはイマイチだと思ったので、IT教育サービスによくある”質問し放題”という手厚いサービスは捨てることにしました。
何かを決めるときは、何かを捨てることが大切です。
■商談は怒られることの連続
手取り足取り教えるわけではないので、教材の中身として「誰が」「何を」を教えるかがとても重要になります。
そこで、各々の分野のトップレベルのスキルを持つ企業に教材制作を依頼することにしました。
さらにトップレベル企業の中でも、エース級社員の方に教材制作に入っていただいて、その方の実務ノウハウを入れていただきたいと考えました。
60社ほど商談しましたが、「まだサービス内容全然固まってないですよね?そんなふんわりした依頼でエース級社員を動かせられません」と商談中に怒られたことも何度かありました。
ご指摘はごもっともです。
相談内容をざっくり言うと、「御社のエース級社員の経験やノウハウを体系化して、最先端のスキルを習得できるように教材にしていただけませんか?超すごい教材を作ってほしいです。」という感じだったので、そりゃ怒りますよね。
そんな中でも、商談成立となった各企業の方々には、実際にエース級社員のスキルやノウハウを見事に体系化していただいたので、本当に感謝です。
■あと一押しのサービスブラッシュアップ
僕の思想として「学びはワクワクするべきだ」という考えがあります。
学校教育時代に多くの人が経験したであろう「教科書に書いてあることを先生がゆっくり説明する、退屈でつまらない授業」は嫌いです。
学びによる成長にワクワクすることはもちろんですが、学びの体験そのものにワクワクすることで、より前向きに学びに取り組めます。
なので、ランサーズデジタルアカデミーの授業は動画教材にしました。
動画教材と言っても、単にスライドショーをペラペラめくりながら講師が喋るという動画ではありません。
モーショングラフィックスをたくさん使ったリッチなアニメーションで直観的に学べます。
アニメーションは、Vue MasteryというVue.jsを学べる動画学習サービスを参考にしました。
知識として理解しにくいデータ連携の流れや業務の進め方なども、アニメーションにすることで、視覚的に直観的にわかりやすい動画になります。
■メタバースで完成
さらに、最高の効率で学んでほしいため、受講生同士の教え合いができる設計をしようと決めました。
divに勤めていた頃に数千人の受講生に触れてきた経験から、"教え合うこと"が最も学習効率が高いことを知っていたからです。他人に対して説明したり、教えたり、アウトプットすることが、最大の学びになるのです。
アウトプットをする受講生同士の交流の場として、メタバースの要素を取り入れることにしました。
メタバースと言っても3DのVR空間ではなく、ブラウザで実現する2Dのメタバースです。
個人的な嗜好としては3Dのメタバースは大好きなのですが、デバイスの支給問題やこの事業における学びの目的から考えると、3Dはイマイチだと判断したからです。
こうして、業界トップレベルのスキルを、リッチな動画教材で学べて、メタバースで交流できて、仕事につながる教育サービスが完成しました。
■日本では"強いIT人材"が不足している
いま、日本では強いIT人材が不足しています。
プログラミングスクール、デザインスクール、Webマーケティングスクールなどを始め、非IT人材がIT人材になるというキャリアチェンジの道は再現性の高い状態で確立されていると思います。
スクールだけでも、日本では毎年数千〜数万人のジュニアIT人材が生まれています。
ジュニアだとしてもIT人材の母数が増えることは、長期的な視点では社会にとって喜ばしいことです。
しかし、IT人材を採用したい企業の目線からすると、ジュニアIT人材ではなく、強いIT人材が増えてくれる方が嬉しいものです。本当の即戦力がほしいですよね。
IT人材を求める企業からすると本当の即戦力がほしい。しかし転職市場やフリーランス市場でも、強いIT人材はなかなか見つからない。
ジュニアIT人材を採用し、自社の研修で人材育成する方針の企業もありますが、ほとんどの企業にとってそんな余裕がないのが現状です。
できることなら外部の強いIT人材を引きこみたいという企業がほとんどです。
だからこそ、ジュニアIT人材を、強いIT人材に引き上げるキャリアアップの道として、ランサーズデジタルアカデミーを社会に提供していくのです。
強いIT人材の不足問題に切り込むからこそ、ランサーズデジタルアカデミーの卒業生には、ハイレベルな仕事や報酬の高い案件を届けられるようになります。
結果的に、ランサーズデジタルアカデミーの卒業生から、個人で何千万円も稼ぐフリーランスがたくさん輩出されることを目指しています。
■もう、平穏な日常には戻れない
こんな感じで、ランサーズの新規事業として教育サービスを立ち上げています。
"最高の地獄"だからこそ、自分一人だと手も頭も回りきらないので、チームの仲間にも助けてもらってばかりです。
新規事業は、「社会的な問題を解決できること」「ゼロからサービスを作り上げるために思考をしまくって、挑戦し続けられること」「事業に込めたこだわりを具体化するプロセスを経験できること」を実体験できるので、とても楽しいものです。
ただし、実現するためには障壁もたくさんあるし、地獄のような日々もあります。「あれ?この施策がハズレた?どうしよう」みたいなこともたくさんあります。
しかも新規事業の予算って、会社の既存事業の"現金"を使うので、「いま使っているお金は、会社全体が既存事業で一生懸命稼いできたお金」という責任があります。
成功しなければ顔向けできません。
そんなプレッシャーもあるので、最近は寝てるときに夢でも仕事してました。
ただ、そんな最高の地獄で働く日々だからこそ、毎日をエキサイティングにワクワクしながら働くことができます。
ちなみにランサーズではFFS理論の導入をしていまして、僕の個人特性傾向グラフはこんな感じで、自分の働き方にマッチしている気がします。
新規事業は、うまくいけば既存事業になる時がきます。"最高の地獄"から、いつの間にか"平穏な日常"になるのです。
そうなったら、事業立ち上げの責任者としては万々歳なのですが、個人的にはやっぱり地獄の方が好きです。
きっとこれからも、最高の地獄で挑戦し続けていくのだろうと思いながら、今日もエキサイティングに働いていきます。