「はじめまして」で緊張するのは当たり前のこと
緊張は、相手への敬意から生まれる
4月から新年度が始まります。新社会人や新入学など新しい環境での生活をスタートさせる人はもちろん、新しいプロジェクトやチームがスタートする時期で、新しい出会いが多くなります。
初めての出会いや新しい生活に、「ちゃんとなじめるかな」とか「うまくやっていけるか」と、不安に感じている人もいるかもしれません。
僕も、誰よりも緊張するほうです。
オーナーシェフになっていろいろな経験をしてきたつもりですが、それでも緊張しないことはありません。初めてテレビに出演したときもめちゃくちゃ緊張しました。
何もわからなくて「台本の通りにしなければ」とか「ディレクターさんの指示通りに動かなきゃ」とグルグル考えて、本番になったら自分の動きじゃなくなってぎこちなくなってしまった、という経験も懐かしい思い出です。
そのあと、何度かテレビに出させていただくと、台本はある程度の進行を示すタイムスケジュールのようなものであって、別にその人間のキャラクターを押し込めるものではないことに気づきます。そうすると自然に動けるようになって、アドリブで対応できたりするようになります。
つまり、経験によって緊張がやわらいでいくわけです。
緊張は、未経験のことに対する恐れや畏怖からくるものだと思います。ですから、新しい環境に入ったり、新しい人に会ったときに緊張するのは、当たり前のこと。逆に緊張しない方が、ある意味で相手を軽んじているともいえますし、もしくは事前に勉強したり情報収集したことで、少しだけ怖さがなくなっているということなのかもしれません。
緊張は、相手への敬意だと思うと、少し気持ちが落ち着くかもしれません。
緊張を解くための工夫
第一印象は、とても大事だと僕は思っています。最初に出会った時の印象が、そのあともずっと続いて、なかなか変わらないと感じているからです。
ですので、初めてのお客様はもちろん、メディアの方とお会いすることや、企業の方など、初めてお会いする時に僕自身も気を付けていることがいくつかあります。
たとえば、なるべくフレンドリーに感じてもらうようにすることです。僕は、比較的に身長が高く、骨格も大きくガタイがいいので、どうしても威圧感が出てしまうんです。
加えて「会社の社長だから偉い人なんだ」という先入観をもってこられる方もいらっしゃるので、なるべく「フレンドリーなおじさん(もしくはお兄さん笑)なんだね」と思ってもらえたらいいなと思っています。
もちろん、フレンドリーといってもなれなれしくするのではなく、自分自身の緊張も含めて、相手の緊張もほぐすような意味でのフレンドリーさです。
それに先ほども言いましたが、緊張は、相手に対する防衛本能からくるものです。初対面でもしっかりコミュニケーションをとって、お互いの性格や本心を理解しあうためにも緊張を解いてから本題に入ることが大事だと思っています。
ブリアンツァでも新卒や中途採用の面接に僕は出席するんですが、その時もやはり皆さんは、僕が社長ということもあって、緊張していることがすごく伝わってきます。
僕自身もブリアンツァに入ってもらいたいと思って面接に臨むので「よいコミュニケーションができるか」と、毎回緊張しています。とはいえ、面接の時間は限られています。
そこで僕は、自分ひとりで面接をせず、なるべく相手と年齢が近いスタッフに同席してもらうことをよくしています。
僕が店のスタッフとフレンドリーに話をしているのを見てもらうことで、緊張を解いてもらったり、雲の上の社長ではなく、一人ひとりと話ができる人と思ってもらえれば、面接のときに緊張して言葉がでないということもなくなるのではないかと思うからです。
時々、わざと席を離れることもあります。僕がいない間に自然とスタッフと面接相手が話をして、さらに緊張が解けていくんです。そうすると、そのあと僕が戻ってからもフランクに話せるようになって、コミュニケーションがスムーズになる。初対面であっても、相手の性格や個性が見えやすくなります。
経験という言葉を経験してもらう
最近では、1月に東京・八重洲に「ASTERISCO(アステリスコ)」をオープンしました。
ずいぶんと前から社内では新店舗のことを話していたので、新店舗に行きたいと手をあげてくれるスタッフが多く、新店舗のコアメンバーで自然と情報交換までして、スタート前からチームのコミュケーションが始めるような、心強いメンバーが八重洲で頑張ってくれています。
もちろん、既存の店舗も移動したスタッフの分もフォローをしてくれていて、さらに良い店舗にしようと頑張ってくれています。心強い仲間がいてくれて、本当にありがたいです。
さらにASTERISCOには、アルバイトのスタッフとして新しい仲間がたくさん入ってきてくれました。彼・彼女たちとは、初めてブリアンツァグループで一緒に働くことになるのでコアメンバーたちも、初めは緊張したり、うまくできるかと不安に思ったりしたことと思います。
オープンして少し経ったある日のことなのですが、あるスタッフがお客様にお飲み物をこぼしてしまったことがありました。レストランでは、絶対にやってはいけないこと。誠心誠意謝罪をしたうえでクリーニング代もお渡ししました。とてもやさしいお客様で、お許しいただいたうえで「また来るね」とお帰りいただきました。
僕はそのときにASTERISCOにいなかったのですが、店長の大西(健也)が、問題が起きた瞬間に僕に電話をかけてくれたんです、営業が終わってからでなく。
僕は、連絡をしたことをすごく褒めました。また、いいお客様にいらしていただいて良かったねということも伝えました。そのうえで、スタッフにも失敗したときにすることを教えることもできて、その子にとってもすごくいい経験になったはずといったんです。
たぶん、ミスをしたスタッフは、すごく悪いことをしてしまったと怖い思いをしたと思います。でもその次に同じ怖さを味わいたくないと思うことが大事で、さらにミスで終わらせるのではなく、良い経験になったと理解してもらうことも必要です。きちんと経験という言葉を経験してもらうことが大事だと思うのです。
よく「どんな言葉を新しいスタッフや、指導社員に教えているんですか」と聞かれるのですが、僕からは、細かく言うことはしません。「こっちの方に行った方がいいんじゃないの?」と、手を差し伸べるぐらいのことは言いますが、教えるなんておこがましい。僕は、まだ教えられる存在ではない、未熟な存在だと思っているからです。
それに、僕がいつも思ってるのは、人間は20歳を過ぎたら、ある程度出来あがっているということです。お父さんやお母さん、まわりの人たちに教えてもらってきたことで人間形成は終わっていると思うので、そのあとが僕が教えることがないのです。
むしろ、年齢が上の人だから学ばないといけないとも、下だから学ばなくていいとも思っていなくて、新しく入ってきた人でも、自分より秀でている部分もあると思っています。
それに料理でもそうですし、サービスもそうなんですけど、ブリアンツァで働くうえでの基準は、僕じゃないんです。もちろん僕の会社ではあるのですが、ルールは僕じゃない。ルールを作るのは、会社で働くみんな。ルールができてきたら、整備していくのが僕や会社のやることだと思っています。
いろいろな人が入ってきて、もちろんいろんな問題が起きて、その度にルールを作っていって、だんだん会社って良くなっていくものです。
失敗を恐れて緊張するのではなく、一つひとつをポジティブに経験として積み重ねていく。
今のブリアンツァがこの22年間の間で一番いいと思っていますし、これからもっと良くなっていくと信じています。
「ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸