90冊目【本のはなし】新しい趣味をお探しの方へ:中国茶の世界へようこそ。
新しい趣味はないかな、なんて探す方も多いと思います。かく言う私もなのですが…。最近、こんな世界に飛び込んでみました、よろしければ一緒にいかがでしょうか?
「これ、花が咲くみたいにきれいなお茶だよ」
20年以上も前の話です。当時、大学生で中国に留学した女友達が、日本に一時帰国したときに、お土産だと「花咲くお茶」をいただきました。
そのころアジアン雑貨に夢中だったこともあり、アジアン特集の雑誌を見るたびに見かけていた写真があります。ガラスのポットに入れられてお花のように咲いたお茶。まさにその実物が目の前にやってきたのです。
あまりにももったいなくて、とっておきの時に絶対に飲もうと決めました。それから丁寧にキッチンの棚にいれ、その時を待ち構えていました。
ある日の昼下がりです。
今日はゆったりと過ごしたい、と思い立ったので、お気に入りのマグカップに「花咲くお茶」を入れました。入れ方はわかりません。たしかお湯を入れるだけでいいはずです。
ポットから熱湯を勢いよく、ジョボジョボジョボ~っと注ぎました。お湯の力が強すぎたのでしょう。お茶はバラバラになってしまいました。葉っぱが浮いただけのお湯。飲んでみると口の中が葉っぱだらけになりました。味は、ただのお湯。
その様子を見ていた母が一言。
「これ、ガラスの急須とかにいれて飲むもんじゃないの?直接マグカップにはいれないでしょう・・・。」
気づいてるんだったら言ってよ!という言葉を出す前に、母のもう一言が追加されました。
「想像できるでしょう・・・本当、あなたは・・・。」
何が言いたいかは、想像ができます。でも今回はそれが問題ではないので、お茶の話に戻します。
とにかくステキな花咲くお茶を私は、台無しにしてしまったのです。無残な姿の葉っぱのお湯、飲めたものではなかったので、残念ながら流しに捨ててしまいました。
あれから、もうどのくらい経ったでしょう。
中国のお茶と言えば、その苦い思い出がまず初めに浮かびます。ちゃんと飲みたかった、お茶。優雅な昼下がりを味わいたかったな・・・。
あこがれの気持ちだけが、ただただ大きくなっていたある日のこと、別の友人から「中国茶の体験会があるんだけど、行ってみない?」と誘われたのです。
思いもよらないお誘いでした。「花咲くお茶」を台無しにしてから、中国茶への苦い思い出をどうにか払拭したかったのです。でもどこに行って何をしたらいいのかわからず・・・。なのでそのお誘いに二つ返事で行くことにしたのです。
さて、中国茶体験会当日です。場所は、神奈川県の某所。住宅と商店が混在しているような通りの一角。何の変哲もないビルの2階です。目立つような看板もなく、言われなければ通り過ぎてしまうでしょう。
階段をあがって、扉を開けた瞬間、私はタイムスリップをしたような感覚になりました。映画で見たような1900年代のレトロチャイナ。
調度品ひとつひとつが繊細で美しいフォルム。そこに置かれていた中国茶器がこれまた異彩を放っています。私の胸はドキドキしっぱなし。
その興奮が冷めぬうちに、体験会がはじまりました。最初に紹介されたのはジャスミン茶。ペットボトルのお茶でよく飲んでいるので、馴染みがありました。
ただ今回、紹介されたジャスミン茶は、まったくの別物と言って過言ではありませんでした。
その証拠といいますか、まず最初に茶葉の香りを嗅ぐように教えていただきました。いえ、香りをかぐのではなくて「聞く」というそうです。新しい世界に踏み入れると、私の中の常識は、いとも簡単に崩れていきます。
ジャスミン茶、茶葉の香りを聞いたときは、直接的に誘ってくるような女性を思い描きました。イメージをするなら峰不二子。脳天から狂わせてきます。
一煎目として、お茶となってやってきたジャスミン茶。お湯と湯気のあたたかさでふんわりとやわらかい香り。鼻をくすぐる感覚は、誰もが思い描く「母親像」ではないでしょうか。
一口、口に含んだ瞬間です。私の体に電流が走ります。口の中は、花の香りでいっぱい。ごくりと飲み込むと、その香りが体の奥へといき、全身に広がったような感覚になりました。息を吐きたくない、でもため息がでてしまう。
「えぐみがない」
今回飲んだジャスミン茶は、私のジャスミン茶へのイメージを覆しました。選んでくださったジャスミン茶は、最高級とのこと。このお茶には何人もの熟練した職人たちの技がここにギュッとしていると、中国茶の先生が教えてくれました。
工程の複雑さもさることながら、私は目の前で繰り広げる、パフォーマンスに心を奪われました。
ふたがついた茶器に茶葉を優しく入れます。陶器と茶葉の触れる音が、ささやかな鈴のようだと感じました。お湯をやさしくいれると、光に反射した湯気が立ち上ります。時間がゆっくりと流れていきます。
女性の中国茶の先生が、お湯の入った茶器にふたをします。茶葉が開くのを待つ間、茶器の説明をしてもらいました。ふた付きの茶器を「蓋椀(がいわん)」いわゆる急須の役割をするそうです。
ちなみに、たくさんの道具があったのですが、とにかく主要メンバーであるこの「蓋椀(がいわん)」と、お茶を直接飲むおちょこみたいなフォルムの茶器だけは覚えて帰ろうと思いました。おちょこみたいな茶器は、名前をわすれてしまいましたが。
静かな空間に戻しましょう。
中国茶の先生の手が、「蓋椀(がいわん)」のふたを優しくずらしました。ふたを使って、お湯の表面をやさしくなでていき、またふたをします。その手つきが、なんとも舞踊のように優雅です。
そして、頃合いがよくなったのでしょう。それぞれの飲む用の茶器に入れてくれます。息をするのもためらってしまうほどの最小限の音。
すべての人の茶器に入れ終わると笑顔で、「どうぞ」と言ってくださいました。その瞬間に息を吹き返したような感覚になりました。彼女、中国茶の先生の動きに見惚れていたのです。
それからは、時間たっぷりと中国茶の世界を堪能しました。あの空間にいたことが夢のようです。
その夢の続きがどうにか見れないものか…そう思い、自分でできる方法を手探りました。その時に選んだ本がこちらです。
世界一わかりやすい中国茶のはじめかた(ゆえじ ちゃんこ)
この本には、中国茶のはじめ方から、中国茶の種類、入れ方、効果効能などあらゆる視点から、中国茶のアレコレが書かれていました。まさに指南書。けれど、堅苦しさはなく、著者本人も「中国茶は自由だ!!」と豪語するほど。
その言葉にあやかって早速、自由スタイルで、中国茶と共に、読書に勤しもうと思います。
新しいことを始めたいな、とお思いの方に。中国茶はいかがでしょうか?