『マチネの終わりに』を読んで
最後の9行の中にこの作品のすべてが凝縮されている。
ストーリーだけでなく、色彩、風景、音、そして時間までもが、一点に集中し、結晶となる。
道なき道をひたすら昇ってゆき、やっとの思いで頂上に到達すると、今までの苦労がかき消される程の素晴らしい景色が眼前に広がる。
そんなエンディングに出会うことができる。
これを読んでいただいた方には、このエンディングの9行を先に読んでから、読み始めることをお勧めします。
そうすれば、この作品のプロトがいかに巧妙に計算されて構成されていることが分かるはずです。
全編にわたって、主人公蒔野が弾くギターの音色が響いている。
若いころの躍動感にあふれ弾むような音色。目指すところが見出せずに思い悩む音色。恋に思い悩む音色。
描写ごとに、様々に音色は変化してゆく。
いつの間にか、主人公蒔野と作家平野啓一郎とが重なり合ってゆく。
かつて新進気鋭として華々しく文壇デビューした平野啓一郎。その姿とダブって見えてくる。
世俗に流され、家庭も持ち、時代に流され、やかつての光輝くような作品は、書けなくなってしまっているのだろうか。
主人公(作者)の不安が、読んでいる方にもひしひしと伝わってくる。
後味の悪い推理小説のようなエンディングになるのだろうか。残りの頁が少なくなってくるほどに不安が高まってくる。
そして、最後の9行で、不安が払拭されるどころか、景色が一転する。
ストーリーが、その一点に凝縮され、完結し、そして昇華する。
やはり、平野啓一郎は天才だったのだ。
いいなと思ったら応援しよう!
サポート宜しくお願いします。