時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第22話「月夜の訪問者 」
「ほんにいい月じゃのう。こがいに大きくて立派な月も久しぶりじゃ。中岡さんには、申し訳ないが今日は一杯いかしてもらうぜよ」
「今日は、この満月のお陰で苦労した。これさえ出てくれなければ、あんなに怖い目には会わんで済んだのに、今でも寒気はぬけんわ」
「誰が、おはんを狙っている」
「新選組だと思う。それ以外に考えられない」
「おはんが、日頃から倒幕、倒幕と叫んでおるから、こげんなことになるのじゃ」
「龍馬さんも、どちらかというと倒幕でしょう」
「わしは、倒す倒さんのどちらにも付かん。政治と言うものは、勝ち負けはではない。新しいか、古いかだけが問題だ。わしは、新しい方に付く」
「結局は、一緒じゃないですか。幕府を倒して新政府を作るということは、同じではないのですか」
「違う。幕府は倒さん。幕府は無くしても、徳川家は残す。藩は、無くしても、人は残す。浪人でも、優秀な者がおれば採用する。その人たちが、新しい政治を作って行く」
「龍馬さんは、西郷さんから幕府を倒す側に付くか、倒される側に付くかで、同じように西郷さんから、同じような質問を置けませんでしたか」
「西郷さんには、何も聞かれていない。あの人は、人の意見を聞いても、自分の信念を曲げない人だ。目指している到達点が違うのだろう。西郷さんは、そのあたりを分かっているので聞かれないのだと思う」
「実は、龍馬さん」
中岡慎太郎が話そうとする時に、その腰を折るように勝手口を叩く音が聞こえた。
「今頃、誰だ」
「まさか、新選組の御用改めでは」
「そうかも知れんが新選組は、ここにわしが居るのを知っている。うぬを探しに来たのかもしれん」
隣の部屋で、控えていた藤吉がすぐに下に降りた。
「峯吉が、どうしても渡したい本があると言って持って来ていますが、どうしましょう」
つづく
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