2022年11月の記事一覧
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第18話「大石隊の強さの秘密」
「抜刀」
大石鍬次郎が、号令をかけた。
この号令が、かかるまでは絶対に刀を抜いてはいけない。
また、この号令がかかっているのに刀を抜かないのもいけない。
両方とも、隊規違反になる。
場合によっては、切腹を申し付けられることもある。
戦闘にとって、刀を抜く、抜かないが、それほど重要視されるのである。
その「抜刀」の号令がかかった。
小さい鈴のような軽やかな音を立てて、それぞれの刀が抜
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第17話「警護の隙を狙え」
中岡慎太郎は福岡孝弟邸の潜戸で、陽が落ちるのを待っていた。
呼びつけておいて、福岡さんは不在であった。
座敷にも通されず、板の間の控えの間で長い間待たされた。
火鉢もなく、茶の一つも出されなかった。寒くてしょうがない。
何という対応だ。
大体において土佐藩自体が何ごとにおいても、連絡が悪すぎる。
だから、取り残されるのだ。
土佐の者誰もが、薩土盟約が破棄されて、薩長同盟が結ばれたこと
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第16話「敵に背を向かすな」
「分かった。菊屋に戻る」
新選組大石鍬次郎隊に配ったおにぎりが、一人ずつ順番に食べ始め、最後になった廣瀬という隊士が、震える手で懐からおにぎりを出し、不器用な手つきで竹皮をむいて、口に運ばれるのを確認して、斎藤一は河原町通りに出た。
いつものように大手を振って歩くと怪しまれる。懐手をして、屋敷を抜け出して遊郭にしけこもうとしている藩士を装った。
さりげなく中岡慎太郎が潜む福岡邸の前を通り過ぎ
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第15話「慎太郎を狙う狼たち」
辺りが薄墨を塗り重ねるように暗くなってきた。
闇夜の漆黒と夕暮れの灰色の境がくっきりとしてきた。
黒はより深みを増した。
そして灰色には、少しずつ黄金色が混ざるようになってきた。
月の光だ。
月が出ているのだ。
漆黒は悪事を包み隠してくれる。
しかし、冷たい月の光はそれを許してくれない。
「遅くなってすまん。山崎丞さんからの差し入れだ」
齊藤一は、大石隊の隊士の柄と鞘を握った手を離さず緊張感を