2022年8月の記事一覧
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第5話「慎太郎、満月の夜は飲み明かそう 」
何の屈託のない天を衝き抜けるような中岡慎太郎の笑顔。
その笑顔には、誰もが吸い込まれる。
岩倉公もしかりだ。
「すまん、すまん。さすがに相撲取りはすごいな。かなわん、かなわん」
「先生すいません。無理やり入ってこられまして、申し訳ありません」
「さすがの元相撲取りの藤吉もお調子者の中岡さん相手じゃ、らちかんのう」
「中岡さん、もう少しで撃つと所じゃ。知った顔でも、知らん顔でも無理やり部
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第4話「物言わぬ刺客」
「坂本先生、中岡慎太郎様が訪ねてこられていますが、如何いたしましょう」
「こんな夜に、あの中岡がのこのこ訪ねてくるちゃないぜよ。名を語っとるだけちゃ。絶対に入れるな」
「はい、わかりました」
大政奉還に反対する同じ土佐藩の人間でさえ、わしの命を狙ろうておるちゅうに、同じ首謀者の中岡慎太郎がのこのこ来るわけないわい。
いつもなら、足音を立てずにすぐに戻ってくるはずの藤吉が戻ってこない。遠くで
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第3話「君が側にいて欲しい」
龍馬は、目を閉じた。
見知らぬ蝦夷の地で思う存分商いをしている姿を思い描いた。
眠くなった。
自分は空の上から、地上を見ている。額に汗して一生懸命に働く男がいる。最初はそれを自分の姿だと思っていた。
その男が手拭で汗を拭いて空を見上げた。自分ではない。若い。甥の直だ。なぜそこに、直がいるのだ。なぜかわからないが、空の上から、直を見ていると、それでもいいのだと思うのだった。
そして、自分自
時代小説『龍馬が月夜に翔んだ』第2話「自由を求めて新天地へ」
龍馬は、日記を書き終えると、そのまま仰向けに寝そべった。
目の前には、黒ずんだむき出しの梁が重くのしかかる。それに輪をかけるように、あたりに醤油の匂いが立ち込めている。狭くて息苦しい。ここに日中居たら気分は晴れない。
後藤(象二郎)は上手く容堂公(山内容堂)を説得出来るだろうか。あの大酒飲みの容堂公にへそを曲げられたら、元の木阿弥になる。小松帯刀は上手く、いごっそうの西郷さんを引っ張りだすこと