高校入試研究④ 2021年度 桐朋高校 国語 大問1(記述)
はじめに
約1週間ぶりの更新となりました。このペースで投稿して行きたいと思っております。
さて、今回は2021年度桐朋高校の随筆の問題を扱います。問題数が多いので、記述問題に絞って解説していきます。
基本情報
桐朋高校の国語は個人的に好きです。笑
現代文2問構成で、字数指定のない記述問題が5問ほど出題されます。以前も述べましたが、高校入試で随筆の良問を出題する数少ない学校なので、非常に重宝します。
解説
出典:温又柔 『やわらかな「棘」と「正しさ」の震え』
問七
傍線部⑤について。このときの「わたし」の心情を説明せよ。
設問分析
心情説明。状況を正しく把握し、少しずつ絞り込んでいきましょう。
傍線部分析
傍線部は、
まず、「狂おしい」が心情を表している。狂おしいは「おかしくなりそうなほど心が乱れている」といった感じ。
そして、「そのとたん」の「その」が何を指しているのかを明らかにする。傍線部直前に、「このひとは根っからの悪いひとではないのだろう、という思いが胸をよぎる」とある。これが「狂おしい」という心情を抱く原因である。
方針
A 「狂おしい」の心情説明。
B 「そのとたん」=Aの原因
C B→Aが成立するための前提
解答要素
A 傍線部の直後(傍線部を含む段落)で筆者の思いが描写されている。
「これ以上、ここにはいられない」
「申し訳ない気持ちが芽生える」
「わたしのせいで、かれらにとって楽しいはずの午後にけちをつけてしまったことが急に心苦しくなる」
「これ以上はわたしの方が耐えられそうにない」
などの描写から考えると、
などとなる。
B 「そのとたん」は先ほど述べたように、「このひとは根っからの悪いひとではないのだろう、という思いが胸をよぎる」の部分。
ではなぜそのように感じたのか。その前に、状況を整理しておくと、
・筆者がファミレスで、小学生を連れた母親×2が、友達の母親が韓国人であることに対する差別的な発言をしているのを耳にする。
・さらに、その友人の母親がシングルマザーであることにも同様に差別的な発言をしていた。
・筆者は初めは我慢していたが、ついにフォークを皿に叩きつけ、彼らに注意をする。
・それに対して片方の母親が子どもたちに「この方の言うとおりよ。わかった?」とたしなめるように注意した。
ここから何がわかるか。差別的な発言をした母親は、自分が悪いことをしたという意識がないため、子どもたちに注意をしたのである。つまり、悪意はなかったのだ。その、悪意がない様子を見た筆者は、「このひとは根っからの悪いひとではないのだろう、という思いが胸をよぎる」となったのである。そして、自分が彼女たちに注意したことが本当に正しかったのか、気持ちが揺れているのです。
ということで、Bは、
となる。
C まず、前提として、筆者は自分が正しいと思っているから、「注意」という行動に至ったのである。しかし、Bにあるように、自分の注意に対する女性の反応を見て、「本当に正しかったのか」という気持ちが生まれ、Aの「申し訳なさ」や「いたたまれない」という気持ちにつながるのである。
「根っからの悪いひと」は何かいい表現ないかな。。。
問九
傍線部⑥「その痛みに気づかないふりをする」とはどういうことか。
設問分析
言い換え。「その痛み」「気づかないふりをする」の二つの要素に分けてそれぞれを説明する。
傍線部分析
傍線部を含む一文は、
まず「その痛み」は指示語を含むので、指示内容を確認。
さらに、「することができなかった」とあるので、「筆者がしようとしたが、できなかったこと」を傍線部は表している。
方針
A 「その痛み」の説明
B Aに気づかないふりをするとはどういうことか。
解答要素
A 傍線部直前に、
とある。つまり、「ファミレスでの差別的発言によって心が傷つけたれたこと」を「その痛み」と表したのである。また、それは「耐えようと思えば耐えられる程度の痛み」とあるので、気づかないふりをしようと思えばできるほど「わずかな」痛みだとわかる。
したがって、Aは、
B 筆者は「気づかないふりをすること」ができずに、思わず注意・指摘してしまったのである。つまり、自分が傷ついていることを無視することができなかったのである。
するとBは、
となる。
問十
傍線部⑦について。「『正しさ』に溺れる」とは、どのような態度のことだと筆者は考えているか。また、そのような態度は何をもたらすことになるか。
設問分析
①言い換え 「正しさ」「溺れる」をそれぞれ換言する。
②内容把握 ①によって引き起こされる状況を説明する。
傍線部分析
傍線部を含む一文は、
「要するに」が段落の初めにあるので、ここまでの描写のまとめである。
また、「正しさ」と「」を用いていることにも注目する。この場合は「辞書的な意味の正しさではない」ということに留意する。
さらに、傍線部の後ろから、「『正しさ』に溺れ」てしまうと、「自分が言葉にするべきことを言葉にする」ことが、適切にできなくなってしまうということが読み取れる。
方針
A「『正しさ』に溺れる」という態度の説明→「溺れる」という言葉に注目。
B Aがもたらす結果の説明→ 「『正しさ』に溺れ」てしまうと、「自分が言葉にするべきことを言葉にする」ことが、適切にできなくなってしまうということをヒントに。
解答要素
A 傍線部の前の3段落に注目。筆者がファミレス出来事を誰かに話すときの感じたことが描写されている。ちなみに「溺れる」には「他のことに注意が向かない」という意味がある。
「『正しさ』に酔い痴れてはいないか」「どのような異論をも挟ませない頑なさ」などとあることから、自分の正しさを振りかざし、それを相手に押し付けることが「『正しさ』に溺れる」という状態だということがわかる。
Aは、
となる。
B 傍線部を含む段落の直前の段落に、
「その感覚」は「自分は正しい」という感覚である。
つまり、Aによって自分の正しさを振りかざし、周囲に押し付けようとすると、相手に聞いてもらえなくなり、その結果、どんなに正しくても自分の主張が相手に伝わらないという状況が生まれるのである。
ということで、Bは、
となる。
まとめ
前回紹介した2019開成と同様に、具体的なエピソードを抽象化して説明する力が求められる問題でした。書かれている情報から状況を把握し、論理的に考えて言語化する習慣をつけていくことが重要です。桐朋高校は解き応えのある記述問題が多いので、開成や慶應女子、筑駒、筑附などを受験予定の場合は練習として解いてみると良いでしょう。
それでは、また次回。お読みいただきありがとうございました。