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小説「繭の遊戯」2025年の共通テストに採用されて注目を集める掌篇小説

「ビッグバンを起こした宇宙のかけらを手に入れた」
 
この本を手にしたとき、そんな気持ちになりました。

『ひと粒の宇宙』

2025年共通テスト国語で採用された小説「繭の遊戯」、著者は蜂飼耳(はちかいみみ)さん。

「いつまでも親のスネかじって」。ある日、おじさんの姉、つまり、わたしの母が大声を上げて怒りはじめた。おじさんは耳が聞こえなくなった鳥のように、なにもかも無視して、母屋からすっと抜けて行った。「お母さん、なんとかいってよ」「いってるよ、いつも」「お母さんが甘いからよ」「もうわかった、あたしが死ねばいいんでしょ、じゃあ、死ぬよ」。祖母は罵りながら、豆の殻を剥いた。 

「繭の遊戯」

共通テストに採用されたこのシーンが「お母さんヒス構文」と呼ばれて話題になりました。
 
「お母さんヒス構文」とは、2023年お笑い芸人のラランドさんが動画でネタにして拡散されたものです。
 
動画では、子どもに対して攻撃的でヒステリックな態度をとるお母さんが紹介されています。

論理を飛躍させて、根拠がないにもかかわらず悲観的な結論を出してしまう。
 
心理学では「お母さんヒス構文」のような状態を「認知の歪み」と呼んでいるそうです。


私は小説「繭の遊戯」が読みたくなりました。
 
「繭の遊戯」について調べてみると、短編小説より短い掌篇小説であることがわかりました。
 
2006年角川書店から刊行された『極上掌篇小説』に「繭の遊戯」は載っていました。
 
ネットの書店で検索してみたところ、『極上掌篇小説』は手に入れることができませんでした。

ですが代わりに2009年に文庫化された『ひと粒の宇宙』にも「繭の遊戯」が載っていることを知りました。
 
私はたまたまタイミングに恵まれて、運良く『ひと粒の宇宙』を注文することができました。

古い本で在庫が少なかったせいか、ネットの書店ではあっという間に品切れになったようでした。
 

 
本屋の片隅に置かれているような、手のひらサイズの小さな古い本。
 
ほとんど話題にならなかった掌篇小説が、2025年の共通テストで採用されたことにより一気に注目を集めました。
 
「まるでビッグバンみたい」
 
そんなふうに考えながら、小説「繭の遊戯」を読みました。

繭の遊戯

これから読む人のために、ネタバレしないよう少しだけ感想を書きます。
 
主な登場人物4人です。
わたし(5つか6つ)
おじさん(30歳手前)
お母さん(おじさんの姉)
祖母
 
小説は大人になったわたしが、5つか6つくらいだった子どもの頃を思い出しながら語られていました。
 
厄介者扱いされている30歳手前のおじさん。実家の離れに建てた小屋に住み、ときどき働いてお金を稼ぐようなフリーターの生活をしています。
 
それを快く思わない親戚。
 
でも、小説を読んで私が驚いたのは、その小屋はおじさんが自ら建てたという記述でした。

めっちゃDIYしている・・・。
 
そしておじさんは、自分で建てた小屋にこもって、いつも何かをコツコツ作っています。まるで繭にこもって遊んでいるよう。


ここまで読んで、私は小説の内容を誤解していたことに気がつきました。
 
「お母さんヒス構文」というワードで話題になっていたので、てっきり悲劇的で暗い小説かと・・・。
 
でも実際は違いました。
 
「お母さんヒス構文」を話した祖母は、ちらりと登場しただけでした。


 
あとはおじさんと5つか6つの「わたし」が中心のお話。
 
おじさんは、自分で建てた小屋という繭にこもって、子どものように何かを作って遊んでいました。
 
楽しそうに何かを作っているおじさんに、同じ子どもとして興味をもつ「わたし」。
 
周りの大人が世間体を気にして文句を言っているだけのように感じました。

 

おじさんが作る様々なものは、成果が見えるかたちで現れることは滅多にありませんでした。
 
でもある日、おじさんは水色のオカリナを完成させます。迷子の梟のような音が鳴る、夜明けの玉子のようなオカリナ。
 
もらったオカリナを吹きながら、「わたし」のおじさんを見る目が変わったような気がしました。
 
おじさんは最終的には繭から出て行くことになります。「わたし」にとってはちょっぴり寂しいのでしょうが、読後感は割とさわやかなものでした。
 
ビッグバンを起こした小さな宇宙のかけらの小説「繭の遊戯」。

なんだかロマンを感じます。
 
共通テストで注目を集めたので、そのうち再出版されると思われます。
 
機会があれば、ぜひ読んでみてください。

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水蝸牛
人と人との温かい交流を信じて、世界が平和になるように活動を続けていきたいと思います。

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