No.359 そんなのアリ?
室町時代には「ものぐさ太郎」という名前の御伽草子(絵入りの分かり易い物語)があります。最後は大出世しますが、面倒くさがり屋は、いつの時代もいたようです。
江戸時代の狂言「杭と人」には、
「世の中に寝るほど楽は無きものを知らぬうつけが起きて働く」
などと言い放つ、ものぐさ大魔王のような人物まで現れる始末です。
時は移り、1937年(昭和12年)、朝日新聞に連載された『路傍の石』(山本有三著)の中には、こんな好きな場面があります。過酷な少年時代、紆余曲折の末に文選見習い(活字箱から活字を拾う職工)の仕事を始めた主人公の吾一に、炊事場の釜炊きのじいやが、入れ歯の間からこんな言葉をしみじみというのです。
「働くっていうのは、はた(傍)をらく(楽)にしてやることさ。」
ものぐさ大魔王の鼻をへし折るような名言です。人のためになら頑張れる人間の本性を言い当てた言葉だと思います。しかも、洒落が効いていて、私には惚れ惚れする一文です。
ところが、2013年(平成25年)にこんな報道がありました。
琉球大学農学部の辻教授達の共同研究チームによると、
「働きアリよりも、働きアリの労働にただ乗りする、働かないアリの生存率の方が高いことを突き止めた」
という、俄かには信じがたい説を発表されたのです。
「???」
すでに、働きアリの集団の中には、常に働かないアリが2割いることを北海道大学の長谷川准教授が証明しています。非効率的ではないかと思われますが、
「働かないアリがいれば、別の仕事が出来たときにすぐに対応できる。仕事の効率は下がるが、集団を維持する巧妙な仕組みではないか。」
と長谷川先生は述べておられました。「働かないアリ」が、別の仕事が出来たからといって本当に働くのかな?ちょっぴり、不安が頭をよぎります。
そんなアリ社会であるにもかかわらず、「助け合い」が発生するというところが面白いですね。そのアリ社会の助け合いの理解や解明が、ヒト社会の助け合いをより深く理解することに繋がるというのが研究テーマだとか…。
「働かずに、ただ乗り」のキーワードは際どいけれど、アリには「働き甲斐」の概念がナイのかも知れません。ものぐさ大魔王は、どんな身の振り方をするのでしょうか?