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No.376 心に残る銀幕の子役たち

 「1896年(明治29年)11月25日~12月1日、エジソンが発明したキネトスコープが、初めて神戸で輸入上映され、この年から数えて60年目にあたる1956年(昭和31年)より、“12月1日は「映画の日」”と制定し、日本における映画産業発祥(日本で初めての有料公開)を記念する日としました。」
とは、映画産業団体連合会のHPにあった「映画の日」制定の経緯です。

 淀川長治(1909年~1998年)や小森和子(1909年~2005年)や荻昌弘(1925年~1988年)や水野晴郎(1931年~2008年)といった映画評論家の名解説も名セリフも忘れがたいものですが、名画も銀幕のスターも綺羅星のごとき中にあって、子役の名演技にどれほど感動させられたか分かりません。荒っぽくですが、私なりに「映画の12月」と位置付けて、懐かしい作品を振り返ってみました。

 1971年のイギリス映画「小さな恋のメロディー」での11歳のダニエル(マーク・レスター)、1982年のアメリカ映画「E.T.」での10歳のエリオット(ドリュー・バリモア)、1990年のアメリカ映画「ホームアローン」での8歳のケビン(マコーレー・カルキン)などは、愛くるしく、明るく、ほのぼのとした子供らしさに溢れていました。

 しかし、1948年のイタリア映画「自転車泥棒」の父親アントニオ・リッチの息子ブルーノ(6歳)の切なくも哀れな演技に泣けてきます。時代や社会に翻弄される弱い立場の親子ですが、生活にあえぎ、打ちひしがれながらも、ラストシーンの親子でつないだ手と手に、互いの存在感の大きさと、投げ出さずに生きようとする希望の光を見るのです。監督の怒りは、時代や社会や人々にあったかもしれませんが、私に「疼く悲しみ」を教えてくれた映画でした。

 また、1952年のフランス映画「禁じられた遊び」の悲劇的な運命を背負った戦争孤児ポーレット(5歳)の演技には、こうして書いているだけでもラストシーンがよみがえり、鼻の奥がツーンとしてしまいます。農家の少年ミシェルとの出逢いによって、死んだ生き物の墓作りという禁じられた遊びに「十字架」を立てるために盗みまで働きます。それは、戦争に対する鎮魂や反戦の意味も含んでいたのでしょうか。ポーレットは、ミシェルを何度も呼びながら人ごみの中に消えて行きます。その後の人生を象徴するかのように…。そして、ナルシゾ・イエペスの作品世界を象徴するようなギター演奏が魂まで揺さぶり、「『禁じられた遊び』を回想せよ」とばかりに深く心に染みて来るのです。

 1973年のアメリカ映画「ペーパー・ムーン」の母親を交通事故で亡くしたアディ(9歳)が、聖書を売りつける詐欺師の男とお互いの絆を深めていく物語は、圧巻の演技です。ペテン師の男をライアン・オニールが演じるのですが、アディ役は、実の娘のテータム・オニールが演じました。タバコを大人並みに吹かせ、ペテン師である男と丁々発止の掛け合いをする、その知的で身体を張った迫真の演技にも唸ります。恐るべき才能、映画のために生を受けたような子だと思いました。「紙のお月さま」と訳せるタイトルですが、20世紀初頭のアメリカで家族や恋人との記念写真の背景として、人気があったという「ペーパームーン」。それは、「人生の幸福な時を記録する」という意味合いがあったという指摘がありました。ラストは、二人が実の親子のように親しくなって、果てしないロードを車で走って行くのです。「幸せな時」も一緒に載せて…。
 作中人物の愛憎も、阿吽の呼吸も、実の親子ならではの本音でぶつかり合った音がスクリーンに映し出されているように思いました。娘は生き生きと演じ、父親は、娘に気圧されているようにも見えました。

 さらに、大好きなのが1988年のイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のサルバトーレ(愛称:トト、10歳)少年です。後年、映画監督となったサルバトーレが、映画に魅せられた少年時代の出来事や青年時代の恋愛を回想する物語です。もう、あのトト少年のキラキラした目の輝き、笑顔の美しさ、彼が自然体で演じて創り出す世界にやられます。そのサルバトーレは、映画館技師で火事により失明した親友のアルフレードが、彼に遺した形見(トトが少年時代に欲しがった名作のフィルムの断片)を渡されます。このシーンは、その友愛の深さにグワッと泣けてきます。トトの天性の感情表現の豊かさが、この映画をより輝かせます。

 今月BSで放送された、1997年のイタリア映画「ライフ・イズ・ビューティフル」の少年ジョズエ(5歳)の純真さ、ピュアな演技にはジワッときました。第二次世界大戦下のナチス・ドイツのユダヤ人迫害を、ユダヤ系イタリア人の親子(グイドとジョズエ)に焦点を当てて描いた作品です。ナチス・ドイツによって、叔父と親子3人は強制収容所に送られてしまいます。母と引き離され不安がる息子ジョズエに、父親のグイドは「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったりしたら減点。いい子にしていれば点数がもらえて、1,000点たまったら勝ち。勝ったら、本物の戦車に乗っておうちに帰れるんだ」と嘘をつきとおします。どんなに悲惨な状況の中でも諦めずに明るく嘘をつき続けるグイドの演技力と、少しも疑わずに信頼し続けて言う事を守る(風呂に入る事だけは執拗に拒んだ)ジョズエですが、5歳の子のあどけなさや真剣さ、不安と葛藤が綯い交ぜになった複雑な表情も見事です。まさか、父親のグイドが、あんなにあっけなく命を落とすとは…。それだけに、悲しみ至極です。ところが、最後は大どんでん返しです。ドイツ兵たちは連合軍に追われ、収容所から撤退します。収容所にいたジョズエの目の前に本物の戦車が現れ、彼を乗せて運んでくれます。彼は、勝利したのです。大きな代償を引き換えに…。

 映画館に足を運ぶことが憚られた丸2年。しかし、家庭で映画放送を録画して観る楽しみを与えてくれました。劇場の大型スクリーンに映し出される迫力や、ステレオタイプの大音量による臨場感には遠く及びませんが、作品が描いた真実を十分に味わうことができました。名画を彩る子役たちは、神様からの贈り物のような光を放っていました。

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