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路面電車を眺めながら、がぶり。チリン。
土曜日、朝9時半。
今日、どこ行く?と布団を被った夫が話しかけてくるのが、休日の始まりの合図。
引っ越してからは、休日に街中散策することがもっぱら私たちの楽しみとなっている。まだまだ知らないこの街の魅力を知りたくて、早くこの街に馴染みたくて、今日はどこ行こうかと、布団を被りながら作戦会議をする。
この日は、路面電車が走るほうに向かって散策することに。せっかくだから遅めのモーニング、いや、早めのランチを食べようということで、線路近くに佇むハンバーガー屋を目的地にした。
真冬の散歩は実に寒いので、モッズコートの上からチェックのマフラーを巻く。夫はお気に入りの古着パーカーを着て、とっくに準備を済ませていた。おそろいみたいな太ブチメガネをかけて、さてと出発。
この道まっすぐ行ったら本屋があるんよ!とか、あの角にあるカフェ、めちゃくちゃ人気らしいよ!とか、平日の1人散歩で仕入れた私の発見に、夫はふ〜ん、へー、と相槌をうちながら、自分の目で新しい街をじっくり見つめながら歩いている。
自分の五感で、この街を味わっている様子をみて、この人との散歩は、これだから楽しいんだよなと再認識させられる。
しばらくすると、路面電車のレールが見えてきた。
広めの道に、みっしりと敷き詰められたレールをみて、歩行者はどこを歩けばよいのかよく分からなくなる。暗黙のルールがきっとあるのだけれど、私たちにはまだ分からない。スタスタと歩く若い男性の後ろにつきながら、縦に一列、まっすぐテクテク歩いていく。
レールに沿って歩いていると、「COFFEE」の看板が見えてきた。
横長の店内は、窓からの自然光がたっぷり入り込んできて、なんとも優しい明るさ。
ゆるい曲調のBGMがピッタリマッチして、自然と気持ちにも余裕が出てくる。
頼んだチーズバーガーは、カリカリのチーズがバンズから大きくはみ出している。チーズを先にパリパリわって食べると良いですよ、と店員さん。
言われたとおりに、パリパリしながらバーガーをがぶり。パリパリ食べながらまたがぶり。新しいハンバーガーの楽しみ方に出会えた気がした。
お酒が飲みたくなるような塩味とコクがきいたチーズのかけらを、2、3個夫にもシェアする。夫のハンバーガーはベーコンも入ったボリューム満点のバーガーだったので、ただでさえ大きな口をさらにギリギリまで大きく開けて、豪快にかぶりついていた。
ハンバーガーを半分近く食べ終えた頃、ガタンガタンガタンと、ゆったり走る路面電車が窓から見えた。
決して早くないスピードで、チリンチリンと鳴らしながらまっすぐレールに沿って進んでゆく路面電車の姿は、その場をよりゆるやかな空気にしてくれる。
座席に揺られる乗客の姿が見えるくらい近くを走るので、店内にいた小さな子供は「わーー!」と窓に張り付いて離れない。
その路面電車に乗ってきたのだろうか、電車が通ってしばらくすると、4人組の若い大学生っぽい男性たちがドリンクをテイクアウトしにきた。
頑張ります!ありがとうございます!また来ます!と、ハキハキ大きな明るい声で受け答えする彼らはきっと常連さんで、きっとこの店の店主も可愛がってるんだろうな。何年か経ったら、この街でまたこのバーガーショップのような素敵なお店を作ってくれるかもしれないな。なんて想像しながら、この街の未来の明るさを感じた。
家族も、若い大学生も、夫婦も、それぞれが思い思いの休日を愉しむ下町のバーガーショップは、きっとこれからもこの街とこの街に住む人々の成長を見守ってくれるはずだと確信してホッとしたので、「また来ます」とひと言残して、店を後にした。
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