見出し画像

【考察】「鬼滅の刃」は将棋の棋士とAIの闘いがモチーフなのか?(ネタバレあり)

 あるボードゲーム(アブストラクトゲーム※)を製作し、勝ち方や公式戦ルールを整えました。公式戦ルールを模索するなかで将棋の歴史や将棋AI(人工知能)について研究し続けるうちに、バイブルとして何度も読み返している漫画「鬼滅の刃」は将棋の棋士とAIとの闘いをモチーフにしているのではないかと思うようになりました。私の勝手な解釈ですのでご留意ください。また、「あらすじとの類似点」以降ネタバレを含みますので十分に注意してください。
※アブストラクトゲームとは、偶然が関与せず、ゲーム内の全ての情報が公開され、ルールが明解で解釈の余地がないゲームを指します。チェス、将棋、囲碁等が該当します。数学的な二人零和有限確定完全情報ゲームと同義です。


あらすじとの類似点

 将棋という、全く疲れることなくハイスピードで探索、評価し続けることができるAI(鬼)にとって圧倒的に有利なアブストラクトゲーム(夜の闘い)でも、人の想いにより1000年以上受け継がれてきた戦法(呼吸)を学び、厳しい鍛錬の中で戦型(型)を習得することで、決して諦めずに勝とうとする高潔な棋士達(鬼殺隊)の物語。既に詰まれる(首を斬られる)ことを克服した最強AI(無惨)は残る唯一の弱点である持ち時間(夜明け)を克服するAI(鬼)の誕生を模索します。

細かい類似点

1.炭治郎の市松模様は将棋盤と同じです。
2.将棋AIが人の積み上げてきた棋譜データを取り込むことで強くなることを、鬼が人を食うことで強くなる、と表現していると思いました。
3.各呼吸に一の型、二の型等がありますが、将棋の大駒の位置での分類を戦型と言います。
4.無限列車や無限城という名前は千日手というルールがなければ将棋が非収束の無限ゲームであることを暗示していると思いました。
5.鬼殺隊は千年前から無惨を追い続けていたとの表現がありますが、発掘された最古の将棋の駒は平安時代のものなので、将棋と鬼殺隊の日本発祥の時代は一致しています。
6.鬼殺隊となる最終選別は将棋のプロになるための入会試験と解釈しました。
7.鬼殺隊の9人の柱は将棋タイトル竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖の8人にプラス囲碁タイトルの天元と解釈しました。天元と黒死牟は囲碁からきています。エポック社から発売された「鬼滅の刃 はじめての将棋&九路囲碁」というものがありますが、九路囲碁がセットされるのは珍しく、将棋と囲碁に関する物語であることを暗示しているのではないかと思いました。
8.鬼殺隊の階級制度と将棋の階級制度はほぼ同じです。将棋の最高位が竜王、名人、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖であり、鬼殺隊の最高位が柱です。
9.将棋のスポンサーは新聞社です。鬼殺隊の父と言えるお館様は先を見通せる優秀な実業家のようなので少し異なりますね…。政府非公認の組織のスポンサーという点では同じです。
10.8巻で炭治郎が猗窩座に対し「卑怯」と絶叫しているのは「指し直し」という疲れを知らない将棋AIに圧倒的に有利な将棋のルールに対してであると解釈しました。
11.12巻に登場するからくり人形の縁壱零式は棋士の練習相手をしている将棋のソフトウェアと解釈しました。
12.鬼を倒すために研究される薬や毒は将棋AIにバグを発生させるために棋士が実際に研究してきた特定の手順等と解釈しました。例えば、ある駒を成りにできるのに故意にしないといった本来であれば考えられないような手を棋士が指した際、将棋AIが適切に探索、評価できなくなるといった事象が実際に過去起きています。
13.無限城編は獪岳から鬼舞辻無惨まで5回戦であり、2017年まで棋士と将棋AIが真剣勝負をしていた将棋電王戦がモデルではないかと解釈しました。次に各対戦相手のモデルについてです。
 ①獪岳は基礎的な棋譜のデータ入力が漏れている、そこまで強くなかった頃の将棋AI。
 ②猗窩座は限界を超える攻防の中でシンギュラリティに達し、自我が芽生えたことで戦う意味を見失った将棋AI。
 ③童磨はある特定の手順を踏むことでバグが発生してしまう将棋AI。
 ④黒死牟は天元と同じく黒死という囲碁用語から名前がきています。囲碁界最強のAIと言えば、あれしかないです。2016年に囲碁の世界チャンピオンに勝ち、世界的なAIブームのきっかけを作ったとされるGoogle DeepMindが開発したアルファ碁がモデルではないかと思っています。詳細は省きますが、アルファ碁は囲碁を画像としてディープラーニングしており、黒死牟の特徴的な6つの目や剣に付着する目はそれを表現しているのではないかと解釈しました。
 ②はSFの世界観ですが、①③は過去将棋電王戦の将棋AIをモデルにしているのではないかと思いました。④について、アルファ碁が将棋の竜王(柱最強)と対局する姿を擬人化して描いたのではないかと勝手に想像するだけでテンションが上がります。月の呼吸で出るエフェクトは一般的な月のイメージである半円ではなく円に近く、碁石をイメージしているのではないかと思いました。
14.最終戦の解釈
 詰まれる(首を切られる)ことを克服した最強の将棋AI(無惨)に残る唯一の弱点は持ち時間がゼロになること(夜明け)。その最強将棋AI(無惨)に勝つために繰り出した主人公の最大奥義は一の型から十二の型を永遠につなぎ続ける同一局面のループ(日の呼吸十三の型)であると解釈しました。
 同一局面をループさせ続けることで最強将棋AI(無惨)の持ち時間を奪い続け、遂に将棋AI(無惨)の持ち時間をゼロ(夜明け)にすることで勝利します。
 将棋ファンであればループが続くことを防ぐために、4回同一手順・局面が確認された時点で引き分け、先手後手入れ替えて差し直しとなる千日手というルールがあることをご存知かと思います。私もここの解釈に悩みました。しかし、千日手というルールについて調べた結果、鬼滅の刃の舞台である大正時代において、千日手というルールは公式に明記されていません。1927年(昭和2年)の対局が発端となり千日手というルールが明記されることとなりましたので、公式に設定されたのは昭和です。
15.鬼舞辻無惨は人の欲望の固まりと解釈しました。AIは開発者の手を離れ、モラルが高い人のデータからも、モラルが低い人のデータからも、一切分け隔てなく機械学習により勝手に学び続けます。もし、欲深い低モラルなAIが出来上がったとしても、それは人間自身の欲深さや低モラルな考えが投影されていることを忘れてはいけないのだと思います。

アブストラクトゲームにおける人とAIの対戦

・1997年、IBMのスーパーコンピュータ「ディープブルー」が当時のチェス世界チャンピオンに勝利。
・2012年、将棋AI「ボンクラーズ」が米長邦雄永世棋聖に勝利。
・2016年、DeepMindが開発した囲碁AIのアルファ碁がトップ棋士の李九段に勝利。
 アブストラクトゲームの最後の砦となっていた囲碁は他ゲームと比較すると可能な局面数が多く、世界チャンピオンにAIが勝つのはまだまだずっと先のことと考えられていました。しかし、2016年、世界的注目を集め視聴者が6000万人に達するなか、アルファ碁が世界チャンピオンに勝ち、世界に衝撃を与えると共に、AIが人を超えたのではないかという強烈なインパクトを残しました。
 その2016年に連載が始まったのが鬼滅の刃です。2015年に既にアルファ碁がヨーロッパ王者に勝っていますので、そちらがきっかけになっているかもしれません。

考察結果

 鬼滅の刃は全ての有名アブストラクトゲームで人がAIに陥落したことがきっかけとなり、将棋の棋士とAIの闘いを擬人化して描いたものではないか、これが私の考察結果です。
 上弦の鬼は疫病をモデルにしているという有力な説がありますが、それも正しいのではないかと思っています。鬼のように強いAIに人類共通の敵である疫病の要素を加えることで、鬼殺隊へ感情移入しやすくなります。もし疫病の要素が無ければ、圧倒的な強さを誇る上弦の鬼がかっこよくなり過ぎてしまっていたと思います。
 いかがでしょうか。私の勝手な解釈ではありますが、それなりに合致しているようにも思えます。昔は将棋と囲碁の有段者同士の対局もあったので、将棋の世界に囲碁の世界の天元、黒死牟が混ざっていても違和感はありません。
 もし仮に、あくまで仮ですが、私の解釈が正しかったと仮定すると、この漫画は将棋の歴史だけでなく、将棋AIや囲碁AIについての研究も尽くされており、その結果、次の仮説に辿り着いたのではないかと思われます。
「アブストラクトゲームというAIが圧倒的な力を発揮するジャンルのボードゲームにおいて、非収束の無限ゲームを時間によって有限とすることで、人がAIに勝つ可能性を残せる。また、人とAIの共闘も可能になる。そして、その先に時間をも克服する第三の知能が発現する。」

最後に

 真実は全くわかりませんが、そうかもしれないと思って読み返してみるとまた新たな発見があるかもしれません。23巻もあるにもかかわらず、全巻にわたり漫画の世界観が一貫しており、伏線やファンの思いも含めて完璧に回収してくれる本当に素晴らしい漫画だと思います。もし、未読の方は是非一度は読んでほしいです。
 また、この記事を読んで将棋、囲碁を始めとするアブストラクトゲームに興味を持って頂ければうれしい限りです。様々な魅力的なアブストラクトゲームがありますので。是非体験してみてください。

参考文献
・吾峠呼世晴「鬼滅の刃」1巻〜23巻、集英社、2016年〜2020年
・野田俊也「ゲーム理論の裏口入門 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法」講談社、2023年
・山本一成「人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?」ダイヤモンド社、2017年
・瀧澤武信、松原仁、小谷善行、鶴岡慶雅、山下宏、金子知適、保木邦仁、伊藤毅志、竹内章、篠田正人、古作登、橋本剛、コンピュータ将棋協会(監修)「人間に勝つコンピュータ将棋の作り方【あから2010を生み出したアイデアと工夫の軌跡】」技術評論社、2012年
・「千日手」「フリー百科事典 ウィキペディア」2024年1月26日 (金) 20:42(千日手 - Wikipedia
・「将棋電王戦」「フリー百科事典 ウィキペディア」2024年1月28日 (日) 17:52(将棋電王戦 - Wikipedia
・「AlphaGo」「フリー百科事典 ウィキペディア」2024年1月22日 (月) 11:12(AlphaGo - Wikipedia
・日本将棋連盟「日本将棋の歴史」2023年12月(日本将棋の歴史(1)|将棋の歴史|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)


いいなと思ったら応援しよう!