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わたしが最初にそれと遭遇したのは、去年の12月10日だった。手帳に書いたから、日付まではっ…
いつかの時代、パリの街に、芸術家志望の青年がいて、食堂で働く少女がいた。 ふたりは、…
見えるものを見えるままに描くのではなく、自分が見たいと思うものしか描けない。 だから…
紀伊國屋書店の前で、ヴィヴィアン・ウエストウッドの服を着た年齢不詳の美しい女性とすれ違…
「世の中には、自分に都合の悪いことを都合よく忘れられる人間と、そうじゃない人間とがいるん…
わたしは人を喰って帰る男を待っている。男は夜7時ごろに帰ることもあれば、日付が変わって…
白い乳房に、桜桃のような乳首。まるく、つややかで、口に含めば舌がとろけるかと思うほど、甘い。その桜桃をぼくに食べさせるたび、彼女は普段の品のよさを忘れたかのように乱れた。 ぼくは「桜桃忌」という言葉を、読書が好きな彼女に聞いて、はじめて知った。そしてきょうがその日だということも。 「桜桃忌だから、したいの」 彼女は妙なことを言った。 「……不謹慎じゃない?命日だからしたいって」 「命日だからよ」 彼女は、言いながら、黒いブラウスのボタンを外し始めた。 「好きな作家が、
満開の桜は人を狂わせるのだと教えてくれた男と、夜更けの桜の樹の下ではじめて交わりました…
わたしの初恋は、シャネルの5番だった。 文芸サークルの新歓コンパで、空いていた右隣の…
ねむこ。水木しげるの漫画が好きなきみと、初めてふたりで深大寺へ遊びに行ったのが去年の6…
目を覚まし、暗い部屋でベッドに寝転んだまま、枕元のスマホでTwitterを開いた。 内海くん…
犬くんが、塾から追い出された。 そのことを、おれは松嶋さんから電話で聞いた。松嶋さん…
ぼくはぼくの所属していた「塾」から最初に「追放された」生徒だった。もっとも「逃げた」生…
警視庁捜査一課の課長が主人公で、毎回、凶悪犯罪──というにはどこかゆるい事件を解決していくテレビドラマがある。登場人物は全員いまどきめずらしいほど単純で、また、いまどきめずらしいほど善良だ。だからおれは、疲れて帰宅してから、ビール片手に録画を欠かさず観るくらいには、このドラマが好きだ。 主人公とその妻は、病気で死んだひとり娘の月命日に、カレーライスとプリンを食べる。どちらも娘の好物だったという設定だ。 この場面になると、必ず思い出す。 昔のことだ。 つねに散らかった