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ともだち

「世の中には、自分に都合の悪いことを都合よく忘れられる人間と、そうじゃない人間とがいるんだよ。そして、忘れられる人間のほうが圧倒的に多いんだ。そんな気がする。わたしはたまたま、そうじゃない人間に生まれてきちゃっただけで、だから自分がおかしいとか、病気だとか、どうしてもそういうふうに思えない」
 それが初めて彼女がわたしに発した言葉だった。窓の外は明るく晴れていて、わたしと彼女とふたりきりの病室は、ひんやりと薄暗かった。