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パスト・デザインのやり方

今回はパスト・デザインの具体的な方法論について書きます。関連資料は以下の39枚目以降をご参照ください。

プレゼント・デザインでは、得られる現在の情報から現在の問題を設定し「これをやれば今後解決できるはずだ」という仮説を作って解決策を考えるワークでした。これは、素直に時間を順方向にたどるアプローチで、通常私たちがいつも行っている思考法です。

一方で、ここで取り組むパスト・デザインでは、現在の問題(例えば、海洋プラスチックごみが魚と同重量になるほど増え続けている)と、得られる過去の情報からその問題の要因を特定(プラスチックが発明された時に、環境に負荷を与えない廃棄方法を発明しなかった)し、その要因となっている事柄を変えることでその問題をなかったことにするということを想像します。これは、時間を逆方向にたどるアプローチで、「歴史にifはない」と真逆のことをやる思考法です。フューチャー・デザイン一連のワークの中に取り入れたのは中川善典先生(総合地球環境学研究所/上智大学・教授)です。

「歴史にifはない」というのは、英国の歴史学者であるE・H・カーが『歴史とは何か』という著書の中で、「歴史のif」の発想を「サロンの余興」と切り捨てたことが発端だそうです。私は歴史学者ではないので理解に誤りがあれば指摘していいただきたいのですが、「変わらない過去の事実を変えてその後の世界を想像するのは絵空事のお遊びだ」と言いたい気持ちはわからなくはないです。しかし、SF小説ではこの手のプロットはたくさんあります。そして、パスト・デザインでは、少しニュアンスが異なります。

パスト・デザインで目指すのは、新しいストーリーを作ることそのものではなく、過去の人たちの失敗を指摘して良い方向に導いたり、逆に過去の人たちに感謝を述べたりすることです。もし、過去の人たちに会いに行くことができたら、私たちは未来のことを知っていますので、そのことは確実に伝えられます。そして、内容をしっかり吟味すれば、的確なアドバイスを送ることが可能なはずです。

では、具体的な方法について書きましょう。やることは違いますが、流れは基本的にプレゼント・デザインと同じです。

  1. パスト・デザインの概要と意義を説明する(アイスブレイクと役割分担決めは既に終えているので飛ばす。5分程度)

  2. 過去を振り返るワーク(30分程度)

    1. 視点を決める(ポジティブな視点:授業で取り上げたテーマについて私たちが現在満足していること、ネガティブな視点:そのテーマについて私たちが現在不満を抱いたり社会問題化したりしていることのどちらでいくか。5分程度)

    2. その視点で、私たちが現在感じていることのきっかけとなった「時代」と「要因」の組み合わせを3つ以上考えて書かせるワーク(10分程度)

    3. 言い出し係から順番に書いたことを口頭で説明(1人数分)

    4. 重要な「時代」「要因」を3セット以内に絞る(残り)

  3. 過去世代にアクションを起こすワーク(30分程度)

    1. 視点を決める(ポジティブな視点とネガティブな視点のどちらか。過去を振り返るワークから変えても可。余裕があれば両方でも可。5分程度)

    2. どちらかの視点で感謝するかリクエストする(25分程度)

      • ポジティブな視点(以下のどちらか。両方でも可)

        • 過去世代に「ありがとう」と感謝する(例:現在の医工学が発展した「要因」を過去に求め、過去世代に感謝する。いつ・誰が・何をしたかを明確に)

        • 医工学がより発展するためのリクエストを考える(いつ・誰に・何を残してもらう/捨ててもらう/作ってもらう)

      • ネガティブな視点

        • 問題の「要因」を過去に求め、過去世代にリクエスト(いつ・誰に・何を残してもらう/捨ててもらう/作ってもらう)し、過去を変えることで2025年問題をなかったことにする。

        • リクエストは複数設定して良い

  4. 最後にクラス全体で発表し、教員が講評を述べて終了(15分程度)

  5. ここまででちょうど80分程度。これだと、最後に活動報告などを書かせる時間もある。

リクエスト内容は、新しい何か(技術、法律、活動など)を作るとか規制をかけるとかということを考えがちですが、西村直子先生(立命館大学食マネジメント学部・教授)は「何かを捨てる」「何かを残す」ことを考えることこそ重要だとおっしゃっています。確かに、惰性で続けてきたけどもはやあまり意味がなくなっていることは割と世の中に多いのですが、それを止めることは勇気がいります。その逆で、本当は続けたほうがいいのに予算ややる気の問題で止めざるを得ないことも割とあることです。その話をお聞きした時にとても納得し、以降私の授業でも取り入れることにしています。

全体の進行については、授業が2コマ目以降で全体のイントロやアイスブレイクが必要なくなっていると、比較的ゆったりと進行できます。教員も授業を振り返り、手順や資料をブラッシュアップしてください。活動報告と合わせて、授業の達成度に関することなど聞きたいことを聞いておく(感謝とリクエストのどちらを選んだか、パスト・デザインをやってみてどうだったかなど)と良いと思います。次回はフューチャー・デザインです。

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