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フューチャー・デザインのやり方(前半)

フューチャー・デザイン(未来人ワーク)のやり方、特に私が最近やり始めた劇場型フューチャー・デザインのやり方を以下の関連資料に沿って解説していきます。ここでは、2コマ連続(180分)で終える設計となっており、今回はその前半90分の内容を解説します。


連絡事項(10分)

最初に連絡事項を伝えます。提出物やら授業進行の確認などです。グループワーク主体の授業は通常筆記試験をしませんので、授業態度や提出物を中心に成績評価をしていくことになります(当然、詳細はルーブリックに基づきます)。いきおい、提出物の位置づけは高くなります。そのための注意喚起は毎回しておくことをおすすめします。口頭で説明するだけでは聞いていない学生には届かないですし、合理的配慮などから授業資料を必ず配布して欲しいという学生も一定数いますので、特に、出すべきものは明記しておきましょう。10分確保していますが実際は5分くらいで終わるので、次のワークのためのバッファにしましょう。

班活動1(先週の振り返り)(10分)

まず、役割分担を再確認します。私の授業では、役割分担を各回で自由に変更していいことにしています。「役割が人を作る」の観点から、やったことのない役割(特にファシリ)に積極的に挑戦することを推奨し、他のメンバにはそれをサポートするように指導しています。初めてファシリを担当した学生のほとんどが「周りの人に助けられてなんとか回せました」というような感想を書いているので、これでだいたいうまく行っているようです。しかし、やっぱり難しいから変わって欲しいとか、加点対象の役割を公平に回したいとか、いろいろな理由で役割を変更する場合があるため、その自由度を確保しています。

役割が決まったら、次は今回のリーダーに先週の内容を振り返ってもらいます(と、ファシリが振る)。リーダーですので、先週やったことは把握できているはずです。そして、同時に授業最後にしてもらう活動報告の内容も予告しておきます。そうすることで、学生のモチベーション向上や報告の「心づもり」ができますし、「やるべきことは前もって提示してほしい」という合理的配慮の要望が出された時にも困りません。

そして残った時間で、宿題の確認を各自おこなってもらいます。50年後の未来を常に思い浮かべて1週間過ごしたはずで、50年後の暮らし全般に関連すること最低3つ書いたはずなので、それを読み返して次のワークに備えさせるのが目的です。しかし、宿題をやってこない学生も一定数いますので(当然減点にします)、そういう人たちには今考えるように伝えます。気の早い学生は、この時点でもう未来に行った気になって未来人っぽく話そうとするので、未来人になりきるために心の準備をしよう(まだ未来には行きません)と強調します。そうしないと、このあとで行うタイムリープの儀式が白けてしまいます。

班活動2(未来人になりきる)(30分)

さらに心の準備をさせるために、ここで中川先生の「紙芝居動画」を見せます(10分弱)。そして準備が整った上で、タイムリープの儀式に進みます。ここからが劇場型フューチャー・デザインの見せ所になります。

教員がまず未来人になりきる

タイムリープの儀式に前に、まず色々と演出を伝えていきます。今まで言っていなかったけど実は私は未来から来た未来人で、言葉を話すことさえ久しぶりなので苦労して授業をしているとか、未来ではノートパソコンなんて使わないので、こっちに来てから買ったとか、そういう細かい設定を、学生が未来人になりきる前に教員がなりきって伝えます。

このあとビブスを配って未来に行くので、そのビブスについても説明しておく必要があります。私の授業ではビブスはタイムマシンという設定です。そうすることでよりタイムリープ感が出せます。「さすがにそれは無理があるでしょ」と冷めた目で見られないようにするために、「とにかくなりきることが大事なんだから、そんなわけ無いでしょとか言わないで付き合ってね」とお願いしつつ、「実は私は未来人」として未来から持ってきたとすることで、現在タイムマシンなんて開発されていないという矛盾を解消することができます。

タイムマシンの設定

このあとの未来人ワークのために、タイムマシンの設定は極めて重要です。私はこれまで、7講座、のべ約450名の受講者に対して未来人ワークを繰り返してきたので、次のような細かな矛盾点に気づきました。

  1. みんなで一緒に未来に飛んできたのに極端に違う未来をそれぞれが口にする

  2. 未来に飛んだ直後なのに未来のことをよく知っている

  3. タイムマシンで未来に飛んできたのに周囲の環境が何も変わっていない(休憩をはさんで外に出ると最悪)

これらの矛盾点を解消するために、私はタイムマシンの機能を次のように設定しています。

  • オンにすると、今の年齢のまま、それぞれ異なるパラレルワールドの50年後(2074年)に飛ぶ(1.の解消)

  • 飛んだ直後、瞬時に世の中の様子を把握できる(2.の解消)

  • オフにするか、脱いで20分経つと2024年に戻る(3.の解消にはならないものの、休憩時はビブスを抜いてでいいけど、授業時にはまた着ないといけないこととの理由)

未来に来たのに教室のままという矛盾の解消

前節3.の解消は厄介です。50年の時間を経たのに同じ教室のままであることはどう考えてもおかしいですよね。そして、授業なので教室でやらないわけにはいかず、映像等で気分を盛り上げたとしても限界があるのです。

そこで私が思いついたのは、全く同じ教室であることこそ逆に未来っぽいと思わせる方法です。つまり、この場所は2024年の九大を完全再現したテーマパーク「キューダイランド・ジャパン(QLJ)」であり、学生は教室アトラクションの中にいるという設定です。これだと50年後に全く同じ教室でも矛盾はなく、休憩を挟んで教室の外に出ても、そこは全て未来人のキャストが2024年の人を演じているアトラクションなので、全く同じで矛盾がないのです。授業外の友だちに会って話たりすると破綻しますが、そこは仕方ありません。

タイムリープの儀式(ここまでで5分~10分)

ここまで準備すれば、儀式が行えます。儀式はシンプルで、みんなにビブス(ビブス型のタイムマシン)を配って装着してもらい、タイムリープ中っぽい映像を見せながら、「いまからスイッチを入れる」というだけです。その間、場面の切り替えを印象付けるために、一度目を閉じさせたりするとなお良いでしょう。

タイムリープが成功したあとは、再度設定を確認しておきましょう。つまり、それぞれ異なるパラレルワールドの2074年に来ており、タイムマシンの機能で一瞬にして2074年の世の中を知っている、という設定です。

未来人どうしの歓談(15分くらいとりたい)

50年後の未来に飛んだあとは、未来人どうしで歓談し2074年の人々の暮らしを共有するワークをやります。タイムマシンの機能で、それぞれ異なるパラレルワールドの未来で再集合し、さらに未来人の暮らしや社会を一瞬にして把握できているので、その情報交換は矛盾なくできます。その際に、現在形の断定形で話すことだけは徹底してください。そして、未来を想像しにくい人には、2024年は〇〇だったけど(過去形)、2074年では〇〇しているよね(現在形)という対比のフォーマットを提示してあげると、話しやすくなります。

授業のテーマ(ここでは医工学)に関する未来の実態をいきなり話し合うより、暮らし全般について歓談させた方がとっつきやすく、そして何よりこれが一番盛り上がるワークになります。10年以上グループワーク型授業を実施してきて、教室のあちこちで爆笑や歓声が飛び交うワークは他にはありません。ぜひグループを回りながら、学生がどんな未来人になりきっているのか聞き耳を立ててください。そして、もし現在形の断定形で話していない学生がいたら、そのときは訂正してあげてください。

班活動3(未来の医工学の実態調査)(20分)

次に行うのは、授業のテーマに関する未来の実態調査です。プレゼント・デザインのワークで実施したネット検索による実態調査を、そのまま頭の中でやるイメージです。学生さんには、2074年(タイムリープ前から50年後)の実態を想像で自由に話してもらいます。その際に、考えうる理想の形、避けるべき最悪の事態など極端な発想で構わないことを伝えてください。そうすると、思い切ったユートピアやディストピアを描きやすくなります。ここでも現在形の断定形で話すことと、未来を想像しにくい人には「2024年は〇〇だったけど(過去形)、2074年では〇〇しているよね(現在形)」のような対比で考えてみるように伝えてください。

班活動4(未来人から現在人へメッセージ)(20分間)

最後は、未来人から現在人へメッセージを送るワークです。2074年に飛んできた人は2074年の現在人なのですが、授業では起点を2024年としているため、便宜上2024年の人を現在人、2074年の人を未来人と呼ぶことを伝えておくと混乱しないでしょう。

2074年の技術で「2024年の人々と交信できる」ことを伝えた上で、2024年の人々に送るメッセージを考えるワークに取り組んでもらます。この時点ではまだ未来にいることがポイントです。どちらが正解というわけではありませんが、未来にいるうちにメッセージを考えたほうが、よりリアルなメッセージになるように思います。旅行から戻ってきて思い出して書く紀行文より、旅先で書く日記のほうが生々しいですよね。

そして、2074年の人々の暮らしや授業テーマの実態を踏まえ、それを実現/軌道修正するために、2024年の「誰に、何をどうしてもらいたいか(やめる、続ける、新たに取り組む)」を話し合って、メッセージをまとめさせましょう。私のフューチャー・デザイン授業は2コマ連続でやるので、ここで前半の授業は終わりになります。このメッセージの発表は後半の授業の最初にやることとし、それを予告しておきます。

休憩時間の過ごし方

これで一旦休憩に入りますが、劇場型フューチャー・デザインでは休憩であっても手を抜きません。次のように休憩時間のすごしかたを伝え、未来の設定を徹底して守ります。

  • QLJの各アトラクションを楽しみましょう

  • 周囲の人達はみんな2074年の「キャスト」です

  • タイムマシンを脱いで外に出ても構いませんが、脱ぐと20分後に2024年に強制送還されますので、教室に戻ってきたら装着してください

これを伝えてから休憩時間に入り学内のコンビニに行くと、私の存在に気づいていない学生たちが「私たちいま、キューダイランドにいるんだよ」「なにそれ?」と盛り上がっているのを耳にしました。授業後の感想でも、この設定を徹底して守る姿勢が高評価されていました。ぜひ取り入れてみてください。

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