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切なく優しい本を読んで、流れた時間の長さを思う。

ふと読みたくなって本棚の奥から引っ張り出した本。
よしもとばななさんの『デッドエンドの思い出』。

こちら、5つの物語からなる短編集。
たしか20代の頃に古本屋さんで購入したはず。

ばななさん自身があとがきで「『どうして自分は今、自分のいちばん苦手でつらいことをかいているのだろう?』と思わせられながら書いたものです」と書いているほど、つらかったり切なかったりする物語ばかりなのだけれど、その切なさの中にある優しさとか温かさが好きで、時折読み直したくなるので手元に残してある。


ここのところ本を全然読んでいなくて、目にしている活字といえばSNSに流れてくるものか、新聞の朝刊一面のコラムぐらい。

買ってまだ読んでない本がいっぱいあるから(早く読みなさい)、どれを読もうかな…と迷ったんだけど、やわらかい日本語に触れたくて、奥からこの1冊をひっぱりだした。

何度も読んでいるのに、思わずグッと来る箇所もあって「やっぱりいいなぁ」と思った。
切なさの中にある優しさとか温かさとか、ばななさんの世界観や綴られる言葉が好きでほっこり。優しい気持ちになれた。


20代の頃、営業先の会社から自社に戻る途中にブックオフがあったので、週に一度は立ち寄って小説コーナーを物色していた。

とはいえ、何を読んだらいいか分からなくて、最初は手当たり次第に聞いたことある名前の作家さんが書いた本や、ドラマや映画の原作本を読んだりした。

その中で吉本ばななさんの本も読み始め、『キッチン』はもちろん『白河夜船』『TUGUMI』『悲しい予感』『アムリタ』などなど読み漁った。

その中でもこの『デッドエンドの思い出』が一番好きだった。


特に4つ目の『ともちゃんの幸せ』は、主人公が自分と同じ名前だし、ともちゃんのお父さんが浮気をしているあたりから、共感しまくった話だった。

というのも、ちょうどその頃、我が父もおそらくはじめての浮気をして、それに気づいた母が「ともこ、お父さんがね…」と私に相談してきた頃だった。

父の会社は傾き始めてそれどころではない状態だったのに、若い女にでれでれする父と、逆に小さくなる母を見て、また自分の人生も色々あって、なんだかもうぶつけようのない怒りとかやるせなさとか色々な感情がある時期だった。

だから、このお話の中の「神様はなにもしてくれやしない」に激しく同意しながらも、少しだけあたたかく希望がある終わり方に救われもした。

今読んでも、あの頃の気持ちが蘇って、これまた切ない気持ちになる。
まるであの頃の流行りの音楽を聴いた時みたいに、この本を読んでいた時に見ていた景色を思い出す。

そして、なんだかんだありながらも、今平和に暮らせていることにささやかに感謝したい気持ちになった。


ただひとつ。
あの頃と違い、老眼鏡がないと読みづらくなったことに時の流れを激しく感じた。

小説の中の人たちは、ともちゃんは、あの頃のまま全く年を取らないのにさ。
現実って残酷だわね。


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