歳時記を旅する 1〔春昼〕後 *春昼の鯉ゆつたりと水を練る
磯村 光生
(平成六年作、『花扇』)
春昼を詠んだ詩歌では、短歌に、北原白秋の「塔や五重の端反うつくしき春昼にしてうかぶ白雲」(昭和九年)がある。
漢詩では、さらに時代を遡り、晩唐の杜牧(八〇三~八五三)の「旧遊詩」に「重ねて尋ぬ春昼の夢、笑ひて握る浅花の枝」とある。
唐の時代からも春昼といえば、白昼の夢の世界と現実の世界とが現れる作品になっている。
句は、鯉が水を練っているという。
水の中を鯉が泳ぐのではなく、主客が転倒して、鯉が水を支配しているかのよう。
人にはわからない鯉の世界が見えてきそうである。
「酒房いそむら」には、いつもこの句が短冊に書かれて店内に飾ってあった。
俳句を始めた頃、マスター(作者)の句といえばこの句、目指す俳句といえばこの句だった。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和二年四月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜―」)
写真/岡田 耕
2022年4月 武田神社
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