習慣化できる人、できない人
ダイエットや勉強がつづかない人が、よく言うセリフがあります。
「今回こそ、がんばろうと思ったんだけど……」
ここに大きな誤解があります。私に言わせれば、そんなことを言っているからいつまでたっても習慣化できないんです。
習慣化できないのは「がんばりが足りない」せいではありません。「がんばろうとしている」からダメなんです。
たとえば「歯磨き」は、がんばらなくたってやれますよね。毎日の習慣になっているわけです。
では、どうすれば「がんばらなくてもやれる」状態にできるのか。
それは「ハードルを極限まで下げること」です。
「がんばってハードルを越える」のではありません。がんばらなくていいように、ハードルを下げて、下げて、徹底的に下げていく。これが習慣化の鉄則なのです。
習慣化のために下げるべきハードルは3つあります。
1)「行動」のハードル
2)「時間」のハードル
3)「やる気」のハードル
これらのハードルを下げるには決まった「やり方」があります。それに従いさえすれば、ほとんどの行動は歯磨きのように「がんばらなくてもやれる」状態にできます。
もう一度言います。習慣化は「がんばったら負け」です。まずはこのことをしっかり頭に入れてください。
それではハードルを下げる「やり方」を説明していきますね。
「ものすごくラクなこと」から始める
1つ目は「行動」のハードルです。
たとえば英単語の勉強を習慣化したいとき、いきなり単語を覚えようとしてはいけません。
まずは「毎日、単語帳を手に取ること」から始めていきます。
「いやいや、そんなことでできるようになるの?」「単語帳を持つなんて絶対できるじゃん」と思うかもしれません。
しかし先ほども言ったとおり、習慣化はがんばったら負けです。むしろ「ものすごくラクなこと」から始めないといけないのです。
最初はちょっとやる気があったりするので、無理をしがちです。「単語帳を2、3ページ覚えるくらいできるでしょ」と思ってしまう。
やる気のある状態だと、自分の「これくらいできるだろう」という範囲を過大評価してしまいます。これは典型的な失敗パターンです。
はじめはやる気があるので、数日は続くかもしれません。でもすぐに「ちょっと今日はめんどくさいな」となってやめてしまうのがオチです。
自分のやる気を過信してはいけません。むしろ「自分はがんばれない人間なんだ」とさっさと認めてしまいましょう。
そして「がんばらなくてもできる」レベルまでハードルを下げるのです。
英単語を覚えるなら「単語帳を手に持つ」
ランニングなら「ウェアに着替える」
ヨガなら「ヨガマットをひく」
これくらい簡単なことから始めます。最初はこれがクリアできたらOK。ほんとうにそれだけでいいんです。
少しずつ「あたりまえ」にしていく
同じことを毎日やっていると、その行動が「あたりまえ」になっていきます。歯磨きをするかのように、毎日自然とその行動をとれるようになるんです。
そこまでいけば、少しくらいハードルを上げてもストレスになりません。
ただし、ここでも「がんばったら負け」です。ハードルは少しずつ少しずつ上げていきます。
そのためには、習慣化したい行動をこまかく分解します。たとえば「単語を覚える」という行動は、いくつかのステップに分解できます。
・単語帳を手に取る
・単語帳をひらく
・単語帳のあるページを見る
・単語帳のあるページの単語を覚える
先ほと言ったように、はじめのうちは単語帳を手に取ることさえできたらクリアです。
毎日「手に取る」ができるようになったら、次は「ひらいてみる」です。
けっして調子に乗って「覚えよう」としてはいけません。ここで「がんばって」しまったら、いままでがんばらずにやってきたことが水の泡です。
「ひらいてみる」ができたら「読んでみる」。それもできるようになったら、ちょっと声に出して意味もチラ見してみる。
そのあたりまで習慣化できてはじめて「1ページ覚えてみる」です。
このように段階的にやっていくことで、行動が少しずつ「あたりまえ」になっていく。遠回りに見えますが、実はこれがいちばん近道です。
その「15分」をムダにするな
2つ目は「時間」のハードルです。
たとえばうちの英語スクールでは「1日1時間」の勉強を勧めているのですが、いきなりまとまった時間を取ろうとすると「がんばる」必要が出てきてしまいます。
でも時間を小分けにすれば、少しハードルが下がります。電車に乗っているときやお風呂に入っているときなど、ちょっとしたスキマ時間で取りかかれるようになるんです。
ふだんの生活を変えることなく、がんばらなくても取り組めるようにしていく。そのためにスキマ時間を活用するのです。
そうは言っても「忙しくてスキマ時間なんてありません」という人もいると思います。
そういう人におすすめなのが「15分ごと」に区切って1日を見直すことです。
15分というこまかい単位にわけると、意外とスキマ時間が出てきます。たとえば、朝ごはんを食べてから家を出るまでの15分。お風呂がわくのを待っているあいだの15分。「お風呂に入ってから寝るまでの間に2時間も見つかった」なんて人もいるくらいです。
私の知り合いのすごく忙しい社長さんは、ランチでご飯を注文してから手元に届くまでのあいだに、リスニングをやっていました。
これまでTwitterを見ていた時間を、リスニングの時間に変えた人もいました。すると最終的には、TOEICのリスニングで満点近くとれるまでになったそうです。
「時間がない」という人も、トータルでいうと1日1時間ぐらいはSNSやゲームなんかをやっていたりします。ぜひ「15分」に区切って、スキマ時間を探してみてください。
15分も積み重なると大きい
「たった15分でなにができるの?」と思う人もいるかもしれません。でも15分あれば、意外といろいろなことができます。
たとえば英語の問題集を解くことだってできます。20ページほどスマホで写真を撮っておけば、電車を待つあいだや、電車に乗ったときなどに取りくめます。
いまはマスクをしているので、カフェの中や電車内であっても音読やシャドーイングを、小声でやることもできます。英語の教材で音読やシャドーイングにかかる時間は30秒くらい。15分あれば20回はできるでしょう。
「毎日20回音読する」というのは、けっこうな効果を生みます。たった15分でも、毎日続ければ半年や1年後には大きな差になります。
トリガーを決める
3つ目は「やる気」のハードルです。
これはわかりやすいですよね。「なんかやる気が出ない……」という気持ちは誰でも経験したことがあると思います。
そうならないために、なるべく「やる気」に頼らなくていいような仕組みをつくっておくのです。これにはいくつかのやり方があります。
まず「トリガーを決める」というやり方です。
「あれをやったら、これをやる」というように、毎日やっている行動とやるべきタスクをセットにするんです。
「毎朝7時に勉強しよう」などと「時間」を決めるのはダメです。これだと「時間になったけどやる気が出ない……」となってしまうから。
そうではなく、すでに習慣になっている「行動」とくっつける。そうすると目的のタスクにスムーズにうつることができます。
自習室に入ったら→単語帳をひらく。
電車に乗ったら→読書をする。
ズボンを履いたら→腹筋を10回する。
これらの例では、左側の行動が「トリガー」になります。
これは習慣化の手法で「if-thenプラニング」というもの。トリガーとなる行動をセットで決めておくと、迷いが生じません。
この「迷わない」というのがすごく大切です。「やろうかな、どうしようかな」と迷うことができてしまう状態だと「今日はやる気が出ないからやめよう」となってしまうんです。
あらかじめ「トリガー」を決めて、迷わずやれる状態をつくっておきましょう。
環境が9割を決める
「やらざるを得ない環境」をつくるというやり方もあります。
たとえば単語帳で勉強するなら、3冊ぐらい買っておいて、カバンの中と、ベッドと、トイレに置いておく。とにかく日常生活の中で、単語帳に触れる機会を増やすんです。
アプリで単語を覚えるなら、スマホ画面のすぐタップできる位置に、単語アプリをセットする。
ジョギングを習慣にしたいなら、枕元にトレーニングウェアをセットして寝る。もっと極端にやるなら、トレーニングウェアをパジャマにして寝るのもいいでしょう。
やめたい行動があるときも「環境」を工夫することで解決できます。
ついSNSをみてしまう人は、SNSのアプリをスマホの後ろのページに移動させる。もっと極端にやるなら、アプリを消してパソコンからしかみられない状態にするのもいいでしょう。
勉強や仕事に集中したいなら、スマホを持たずに出かける。ついテレビを見てしまう人は、テレビのコンセントを抜いてしまう。ダイエットしたい人は、お菓子の買い置きはしない。
このように「アクセスしにくい環境」をつくってしまうんです。
「環境のせいにするな」とよく言われますが、実際には「環境が9割」だと思います。
人は目の前にお菓子があったら、もう食べちゃうんです。だから「いかに目の前にお菓子がない状態にするか」が勝負。自然に取り組めるような環境をつくることで「やる気」に頼らなくていいようにしましょう。
どうしてもやる気が出ないときは……
それでもどうしてもやる気が出ない。
そんなときは「とりあえず5分やる」です。
最初は「やる気が出ないな」と思っても、5分ほど作業していると脳の側坐核(そくざかく)という場所が刺激され、ドーパミンが分泌されてやる気が出てきます。これは「作業興奮」と呼ばれる現象です。
読書をするときも「5ページだけ読もう」と思って読み始めると、だんだん引き込まれて数十ページくらい読めることってありますよね。「なんかキリが悪いから、この章の最後まで読むか」となるものです。
コツは「ほんとうに5分でやめるつもり」でやること。「ぜったい5分しかやらない」くらいの気持ちでOK。これがすごく大切です。
「5分でやめるつもり」なら、取りかかる上での「やる気」のハードルはかなり下がります。取りかかりさえすれば「作業興奮」が起きるので、意外とやれてしまうものなんです。
小さな成功体験をつみかさねる
もう一度、3つのハードルをおさらいしましょう。
1)「行動」のハードル
2)「時間」のハードル
3)「やる気」のハードル
でしたね。
ここまでお伝えしたことをきちんと実践すれば、3つのハードルはかなり低くなっているはずです。
実際にやってみるとわかるのですが「やると決めたことをやれた」というのは、すごく達成感があって気持ちがいいものです。
この達成感によって脳の「報酬系」が刺激されます。報酬系とは、欲求が満たされたときに活性化し、気持ちよさや幸福感などを引き起こす脳内のシステムのこと。
ようするに、小さな成功体験をつみかさねることで脳が「楽しい」と感じる状態をつくっていくんです。
このサイクルに入ってしまえば、習慣化は成功したも同然です。
「記録」でさらに達成感を味わう
最後にちょっとした工夫をお伝えします。
やったことを「記録する」ことで報酬系をさらに刺激することもできます。
むかしうちの会社でバイトしていた京大生が教えてくれた「ぬり絵勉強法」というものがあります。方眼紙のルーズリーフを用意して、勉強したぶん色をぬっていくんです。
ポイントは、1マス1時間とかではなく「5分で1マス」くらいの小さな単位にすること。科目ごとに色を変えればカラフルな模様ができあがり、すごく達成感があるんです。
このやり方は勉強以外のどんなことにも使えます。ジョギングでも、筋トレでも、ヨガでもいける。
やれたことを「可視化」するのは、すごく達成感があります。「昨日もできた、今日もできた」という成功体験が目に見える形で残ることで、さらに楽しくなっていくんです。
ちなみに習慣化のために「ごほうび」を用意するのはおすすめしません。わざわざごほうびを用意してしまうと「ごほうびのためにがんばる」という状態になってしまうからです。
ごほうびなんかなくても「今日もやれたな、気持ちいいな」という達成感を繰り返すだけで十分なのです。
がんばれないのは悪いことじゃない
習慣化とは「がんばらなくてもやれるようにする」ことでした。
そう言われると「そもそも、がんばらないっていいことなんだっけ?」と思う人もいるかもしれません。学校や会社では「がんばっている人」「がむしゃらに努力している人」が賞賛されますよね。
でも私は「がんばらない」ってべつにダメなことじゃないと思います。習慣化のような技術を使って成果を出せるのであれば、がんばらなくたって何の問題もありません。
私は小さいころからずっと「努力」が苦手でした。
朝は眠くて起きられないし「きついな」と思ったら休んでしまう子どもでした。中学生のとき、校訓だった「努力の上に花が咲く」という言葉がイヤすぎて、卒業アルバムに「努力なしで結果だけ」と書いていたぐらい。
だからつねに「いかにラクに成果を出すか」を考えてきました。そんな私が行き着いたのが「習慣化」なのです。
生まれつき努力が苦手な人も、習慣化の技術を使えばふつうに成功できます。
私自身が努力できなくて苦しんできたからこそ「努力できない人がどうすれば救われるのか」を伝えたいと思い、このnoteを書きました。
今日はいろいろなテクニックをご紹介しましたが「これならできそうだ」と思えるものがあれば、ぜひ取り入れてみてください。がんばらなくても、少しずつ人生が好転し始めると思いますよ。
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