#213『こころ』夏目漱石
久しぶりにnoteを開いたら結構な数のお知らせが届いていた。離れている間にも色々な人が見てくれているのかなと思い、ちょっと嬉しい。
今の世の中は、悪い方にどんどん向かっている。そんなふうに思える。でもこの本を読むと、いやいや、進歩している、と思える。そこが、新鮮だった。
どうでも良いこと、小さなことで、くよくよ悩んで、自己否定を繰り返し、最愛であるはずの人にも心を明かさず、挙げ句の果てには妻をひとり残して勝手に自殺する。それが本書の「先生」。金があるからと言って仕事もせず、かと言って楽しく遊びもせず、もんもんと悩み続け、そして…遺書が異常に長い。手のつけようのないダメ人間である。
現代だったら、「そんなこと言ってないで、前を向きなさい、前を」と言っておしまいの話。または「あほか!」と言われておしまいの話。実際、それくらいのサイズの問題だから、これくらいの応じ方が丁度良い。
でも漱石の時代にはこれはダメ人間小説ではなく、立派な純文学だったということは、多くの人がそれなりに共感したとか、少なくとも「あほか!こんな下らん小説を書くな!」と総スカンしなかったということなので、比較したら現代の方がよほど明朗で健康的になっていると思うのだ。
「先生」の友達のKも本当にしょうもない人間で、どうってことない理由で自殺するのはまあ結構だが、間借りしている家で出血死するなど、始末する人の面倒と精神的負担を考えない自己中心主義者なので、「何をやっているんだおまえは」の一言。
登場人物でまともなのは女性二人だけだった。
本作全編通して、悩むに足る悩みは一つもない。少なくとも現代の水準では、一つもない。どれもこれも、目先を変えたり、発想を切り替えたり、踏ん切りをつけたりすれば簡単に済むような話ばかり。こんな低レベルな時代もあったんだなあとしみじみ感じた。
と、まあ凄くけなしているのですが、読みつつ現代という時代状況を間接的に味わう良い体験にはなった。
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