シリーズ読書感想文|一冊を精読・整理・思索する 第二回「明治大学文学部第十五回読書感想文コンクール 優秀作品集」
(はじめに)
こんにちは、吉村うにうにです。普段は、小説、エッセイ、詩、童話などを書いております。ちなみに記事はこんな感じ
毎回、不定期的に本を取り上げ、その内容をまとめ、考察したことを述べていきたいと思います。以前からやってみたかった「読書感想文」のようなものです。ちなみに第一回はこちら
構成はこんな感じ
(一)まず、短いまとめから入ります。この記事は、読書会の資料を兼ねていますので、1000文字以下を目途に、本の紹介、感想を簡単に書きます。これは、読書会で紹介する方向けですので、深掘りよりも、分かりやすさ、魅力の紹介に重点を置きます。「こんな本なんだ」と、ここだけ読んで頂いても嬉しいです。
(二)つづいて、内容を深めに紹介します。但し、こちらは私の備忘録に近いので、読みやすさを優先しておりません。
(三)最後に、本から学べたことを述べたり、自分の身近な話に例えたり、考察したりします。ここはダラダラ書きますがご容赦ください。「うにうにってこんなことを考えているんだ」というのを共有して頂ければ嬉しいです。「私ならこう考える」と一緒に考えて頂けても嬉しいです。
(はじめに)と(さいごに)だけ敬体で、(一)(二)(三)に関する話は常体で書きます。
(一)と(二)(三)はおそらく被るので、何度も同じワードに出くわしたらごめんなさい。
それでは、今回の本は……
「明治大学文学部第十五回読書感想文コンクール」です。この読書感想文コンクールでは十冊の課題本があって、応募者はそこから選んで千二百字以内の感想文を書きます。恐らく読書感想文の読書感想は史上初ではないでしょうか? この感想文を勝手に「メタ読書感想文」と名付けました。
(一)まとめ ⇇お時間のない方はこちらだけ
(二)内容紹介(ネタバレ注意)
理解できる限りまとめてみたが、メモの羅列になっているかもしれない。読書感想文から推測される、課題本の内容についてまとめる。注意:ネタバレ含めている。
①怒りの葡萄 1929年のニューヨーク株式市場の暴落に始まった大不況で、オクラホマ州の農村の追い出されたジョード一家が、いい仕事があるというチラシをあてにしてカリフォルニアを目指す話。家族は次々と旅の途中、到着先のカリフォルニアで倒れ、仕事は低賃金の不安定な仕事しかなく、暴力と飢えにさらされ、一家は苦闘し家族は次々と脱落する。その中で一家の母親は気丈に一家を支えて踏みとどまる。一家の長女が見知らぬ飢えた男に母乳を与えるシーンが神々しい。
②炎上社会を考える タイトル通り、インターネット上の炎上についての本。炎上は悪いことばかりではなく、ハッシュタアクティビズムのような社会問題を提起するような良い炎上もある(例:ブラックライブズマター)。炎上には投稿者、叱責者、告発者の三者が必要で、前二者が自己呈示目的、後者が演出目的だとされる。炎上の特色としては第三者が罪や罰を決めているという点。炎上例として、コロナ自粛警察、SNS倫理、ハッシュタグアクティビズム、差別・反差別・反反差別、誹謗中傷、キャンセルカルチャー(レッテル張りによって有名人を叩く)を挙げている。コロナ禍では被害者と加害者が見えにくいという特色がある。
③気流の鳴る音 名言が載っている本? 優秀者が少なくて情報が読み取れない。秘境の民族が絡んでいるようだ。
④守銭奴 アルパゴン(守銭奴)が娘を金持ちと結婚させようとする一方で、息子の恋人に恋をする話。しかし、息子は親の箱を盗んで、それと交換に恋人との結婚を認めさせる。アルパゴン以外の人も、打算だらけで生きているらしい。
⑤楢山節考(ならやまふしこう) 姥捨て山の話。「楢山まいり」という。年老いたおりんは、曾孫ができる前に(その時というのが決まりらしい)、山へ自らを捨てる。山で、おりんは、自らの歯を傷つける(餓死を目指している?)。息子辰平は捨てたくない。山で辰平は掟に反しておりんに声をかける。一方銭屋は又やんは死にたくないのに息子に崖から落とされる。
⑥人間関係を半分降りる 社交不安障害を抱えた著者が、人付き合いの仕方を教える。友人、家族、恋人との付き合い方を経験から語り、人間関係が気楽になるような「技術」を伝えている。人間関係は醜いものだから、距離を摂ろうというのが基本。あなたはありのままでいることが大切と伝えているのと、人からどう思われているかを気にしないようにというのが主なメッセージ。ちょっと過激に、自分を肯定しない友人は要らない、家族は人間じゃなくてもよい、恋人なんか無理して作る必要ないとも伝えている。
⑦忘却の河 「彼」の内面告白の本。彼の愛人が字死を遂げて、妻を愛せなくなり、妻は学生とどこかへ逃げた。賽の河原や無縁墓地で何かを発見したらしい(心境の変化をもたらすもの?)。愛とは時に孤独になることが必要らしい。
⑧みんなの「わがまま」入門 社会運動について書かれている。わがままは一見悪いものに見えるが、自分の立場や考えを他者に伝えることは大切。わがままを言うことは、それぞれの立場の困難さの出発点を見出せるという意義がある。社会運動で社会が変わらなくても、自分と周囲に変化をもたらせればよい。社会運動は当事者ではない「よそ者」だからこそできることがある。相手の「わがまま」の背景を知ることも忘れずに。
⑨夢見る帝国図書館 喜和子さんと図書館の歴史。喜和子さんが本を書こうとして、それを「私」に託している。喜和子は戦争を経験している、ホームレスが彼氏という自由奔放な人。図書館は戦時中存亡の危機にさらされた。
⑩ロミオとジュリエット ロミオは他の人に恋をしていたのに、キャプレット家のジュリエットに恋をする。ロミジュリそれぞれの実家は仲が悪い。特にキャプレット家の親はジュリエットに勧めた縁談を本人が嫌がるとキレた。ロミオはジュリエットの親戚?のティオルトを決闘で倒し、まずい事に。ジュリエットが死んだと思って、ロミオは服毒、ジュリエットはそれを見て、短剣で自害。その後、両家は和解。
(三)思索してみて
●全体として
読書感想文から元の本を推測するにあたって、太平洋戦争中に日本海軍がロケット戦闘機「秋水」の製造した話を思い出した。ドイツのメッサーシュミットMe163の設計図の一部だけを持ち帰って復元したらしい。その苦労は並大抵のことではなかったらしい。一旦抽象化された読書感想文から、元の原文を類推するのは大変だが、楽しい仕事でもあった。頭の中で具体と抽象の往復訓練になったと思う。
●個別の感想文を読んだ感想
①怒りの葡萄 高校生の優秀者該当なし、応募者が少なかったのかもしれないが、やはり働いて劣悪な労働環境とは何かを体験していない年代には書きづらかったのかもと思う。かなり陰惨な印象を受ける小説だが、「暗い感じがしない」という感想があり、捉え方の違いかと思った。
「男は明日を憂い、女は今日を生きる」これは、名言。
ラストシーンの母乳を与えるところに感動した人が多かったようだ。救いのない物語に、救いらしきものを与えているからか。
とある感想文では、現代や自分の体験と結び付けて感情的に書かれているものがあった。紙から浮き出てくるような感情ではあるが、その分文体が不安定で、少し文章の展開に気を配っていないように見える。なぜ、ここまで厳しく書けるかというと……、頭のいい方には察しがつくと思う。
②炎上社会を考える
キャンセルカルチャーはどうやら有名人の行動を断じてレッテルを貼って叩く行為らしいが、これは現代の「自力救済」にあたるようだ。自力救済自体は国が禁じているので、おそらくキャンセルカルチャーについても、国は消滅させる方向に動くのではないかと思う。
情報の読み方を学び、責任を持とうという意見が多いが、それは自由をうたうSNSでは難しいのではないか。
自覚した方がいいのは、炎上で笑うのは、告発者でも反応者でもなく、注意を引きつけた一部の投稿者とSNSの主催者と広告主だけなので、炎上には関わらないのが正解だと思う。
④守銭奴
強欲に衝撃を受けたという意見があるが、幸福の基準は人それぞれ。そう考えると、誰を笑うこともできない。でも、お金に限らず何かを際限なく追い続ける人生は満ち足りたものにはならないだろう。
⑤楢山節考
食べてゆける人間の数に限りがある村と病床利用率の制限がかかったコロナ禍を結び付けた意見があったが、この発想の豊かさには尊敬できる。今の高校生は情報化で頭が良いのか? 私が高校生の時は考えもしなかった。確かに、限られたリソースをどう分配するかという問題は共通している。
現代は倫理が成熟した社会だから、姥捨て山という概念があったという意見があったが、現代でもSNS上では「老人になったら安楽死を」などという意見が出ている。倫理などというものは、窮乏の前には消し飛ぶことを高校生はわかっていない。しかし、私が高校生だったら、おそらく同じような夢のようなことを言っていただろうと思う。
死は恐ろしいが、自然という場所が覚悟と安堵を私にくれた、とあったが、少し疑問である。それは、死を実感することがあれば、もう少し違う感想を読ませてもらえたかもしれない。
一般の意見で、もっと高齢者の声に社会は耳を傾けるべきとあった。これは、最近ヤフーニュースの掲示板で見る意見とは異なる珍しいものという感じがした。
⑥人間関係を半分降りる
人生はメトロノームの重りに例えた感想文が秀逸。ちょっと分かりにくいが人生経験の重みとメトロノームの重りが上がっていくことを見事につなげている。
今の日本は人との関係を無理に作らせようとしている、の感想に納得。まさしく現代は「絆ハラスメント」だと思う。
関係を否定しない「半分降りる」というのはポジティブな意味では、に対して、なるほど、そう取るかと感心した。
高校生でミシェルフーコーを読んでいる人がいた。末恐ろしい。
体験談として、リーダーとしてプレッシャーを感じていたがオンラインになって気楽になった、とあるが、オンラインはそういった意味では近すぎる関係を冷却させるという利点があるのかもしれない。しかし、オンラインは対人関係を築く能力を落とすから難しいのではあるが。
他人の事をSNSで見て劣等感を感じるとあったが、同意する。SNSは人を幸福にしない。デメリットだらけに思える。
本書で家族は人間でなくてもいい、に同意。私は、不仲だった姉を脳内から消去して、猫さんに姉の役割を担ってもらっている。見事にそれに応えてくれる猫さんに感謝している。
⑧みんなの「わがまま」入門
袴田事件を例に出して、被疑者の姉がもっと発言すべきだと思ったという思いとわがままは我慢すべきという思いが矛盾するという感想文、見事な考察。これは、自分の身近でも矛盾をあぶりだす必要があると感じた。
感想文を読んで、社会は変えられないから無駄だということではないという学びを得られた。自分と周囲に影響を与えられれば、それでいいと開き直ればもっと自分の人生も攻めに転じられるのかも。
⑨夢見る帝国図書館
「普通」を取り払うと「壁」は「扉」に代わる。高校生とは思えない見事な比喩。
⑩ロミオとジュリエット
現代日本では家同士憎み合うことはないと、あったが、甘い。お年寄りなら戊辰戦争の影響を何十年と残してきているし、差別的な扱いは現代も残っている。また、別の感想では、現代ならこんな悲劇はないと言い切っている物もあったが、方法が変わっただけだと言いたい。
両家は確執が無くなるように柔軟になろうという感想があった。ある意味、わがまま入門と真逆の考えだと思った。
ロミオが憎きティオルトを倒したが視野が狭いとあった。その通りかもしれないが、憎しみの怖さを知らない人間の意見だともいえる。
稲妻のような愛と泥沼のような憎しみを対比している高校生がいたが、比較の仕方が見事で勉強になった。
(さいごに)
感想文から元の書籍を類推し、それをもとに考察するのは、初めての経験で戸惑いましたが楽しくもありました。元の本を類推できるものと難しいものに分かれたのは。感想文の数の違いもあって、今回の方式の限界部分でもあると思います。今回の感想文で際立っていたのは高校生の感想。私が高校生の頃、絶対思いつかないような考察や表現が随所に出ていて、劣等感に押し流されそうりました。しかし、変えられない過去を嘆いても仕方がないので、前を向いて頑張ろうと思い直しました。また、高校生ならではの経験不足が感想文に現れていたところにも気づきました。私も人生経験を積んで、それを基に自分の思考、表現力を高めていければと思います。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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