人生はだし巻き卵
私は朝が弱いため、会社に持って行くためのお弁当のおかずは必ず前日の夜に作っている。
だし巻き卵は私のお弁当で定番メニューのひとつだ。彩も良くなるし、何より一人暮らしで10個入りの卵を買うと意外と消費が大変だからである。だし巻き卵は卵を使えば使うほどふんわり厚みができて見栄えも味も良くなるので、消費期限直近の卵があるときにはお店のように贅沢に3〜4個使って作るのだ。
小さなフライパンを火にかける。本当は卵焼き用の四角いフライパンがあれば良いのだが、キッチンが狭くて置く場所がないので次回引越しした時だな。でも丸いフライパンでも綺麗な卵焼きが作れるのはちょっとした自慢だ。
だし巻き卵が人生だとしたら、
フライパンは『運命』のようなものだろう。
テフロン加工がされた新しいフライパンであるのと、古びて焦げついたフライパンで作るのは作りやすさが全くちがう。そして私が持っていない四角い卵焼き用のフライパンであれば意図せずとも軌道が決まる。生まれもった運命で生きやすさや環境が大いに変わることによく似ている。
ただ、それだけでは人生決まらないよね。
私が丸いフライパンでも綺麗に四角い卵焼きを作るように。
ボウルに卵を3つ割り入れて、水で溶いたヒガシマルうどんスープの素を少々入れて菜箸で混ぜる。
味の濃さは人生の濃さそのままだ。
卵の数は寿命のようなものだろうか。たくさん卵を入れれば大きい卵焼きができるし、卵が少ないと小さい卵焼きになる。
ただ卵が少なくても、何層にもして厚みを出せば小さい卵焼きでもお弁当に入れた時に見栄えはよくなるので、要は作り方が重要だ。限られた卵の量で、どのような配分でフライパンに流し入れて行くかなのだ。
フライパンを十分に熱して弱火にしたら、卵の液を流し込む。くるくると菜箸で混ぜて、ふわふわにする。丁寧に、ゆっくりと。
作り方は生き方だ。
くるっと筒状にしたら、また少しずつ液をフライパンに流す。薄い卵の幕をつくって厚みをだしていく。
あ、しまった。
熱し方が足りなかったのか、焦げつくフライパンだったためか、くるっと巻いていくときに少し膜が破れて歪になってしまった。
でも焦らない。まだボウルには卵の液が残っているから。今度は少し多めにフライパンに流し込んだ。破れたところを集めの卵の膜が包み込んで、また綺麗な形に戻った。途中形成に失敗失敗しても、卵の液が残っていればやり直しが効くのが卵焼きのいいところだ。生きている限り失敗してもやり直せるという、人の生き様そのままだ。
たとえ、最後の最後に形成で失敗してしまったとしても。
たしかにまるまる一本お皿に出すとしたら不恰好だと思われてしまうかもしれないが、お弁当なら断面重視なはずだ。
そして、自分が食べる分には最後に味が美味しければオールオッケーでしょってね。
人生はだし巻き卵。
お酒を片手にキッチンに立つと、そんなくだらないことを考えてひとり『ふふふ』となりながら料理をしてたりする。
こうやってそこからエッセイの題材が生まれたりするわけだから、面倒な家事の時間も悪くないなと思う。
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