オンナですもの
女性に生まれた故のコンプレックスならいくつもあった。
地黒である。
毛深い。
胸がない。
声が低い。
どれも男性であれば気にならないものかもしれない。
色白は七難隠す。
地黒のわたしの場合、七難現るだった。
中学生ともなるとまわりの女子がいわゆるシュミーズ(今はもうそんな風に呼ばないだろうが)からブラジャーに替えつつ、女の子から女への第一歩を歩み出していったものだ。
と言っても、その当時は後ろがバッテンになる、いわゆるスポーツブラがほとんどだった。
わたしも申し訳程度の膨らみが出てきて、ブラをつけるほどではないが、かといってシュミーズでは心許ない、そんなどっちに転んでもいいという中途半端な身体を持て余していた。
もうあと3センチ、いや2センチでいい。
指でこのくらいと鏡に映る胸に夢と願いを掛けていたが、いっこうにそこから育つ気配はなかった。
ある日のこと、母に町の洋品店の包みを渡された時、その時が来たことを悟った。
真っ白いスポーツブラ。
ついにこれを着ける時がきたのだ。
頭からかぶってみると、やっぱり女子らしいふくよかな膨らみがないのは一目瞭然だった。
でも全然ないわけではない。
2センチくらいは出てる。
うん、出てる。
こそばゆいが少しだけ誇らしげに鏡の前で笑ってみる。わたしだって女だ。
ドキドキしながら登校した。
体育では制服を脱いで下に着ていた体操着姿になる。
するとめざとく気がつく者がいる。
後ろからニヤニヤ声で囁く声。
おい、オラヴの奴、ブラしてんの?
体操着にうっすらとスポーツブラのバッテンが見えるのだ。
おーい、オラヴが胸ないのにブラジャーしてるぞ!!
囃し立てる男子数人の声にいつもならうるさいな!と威勢よく言い返せるのに出来なかった。
早くいなくなれ。願うしかなかった。
聞きたくない。笑わないでほしい。
自分の顔がどんなふうになっているのか、考えるのも嫌だった。
そしてそれを聞いている周囲の女子たちも思春期特有の恥ずかしさからか、誰も何も言い返してはくれなかった。
彼女たちも自分を守りたかったのだ。
今のわたしだったら笑ってスルーしただろう。
もっとぐうの音も出ないほどやり込めただろう。
傷つきやすくて、まだ無知で、剥き出しの心を抱えていたわたし。
大丈夫だよ。
あなたはそのままでいい。
あなたは立派にオンナになって、今はおばさんと呼ばれてふてぶてしくも楽しく生きてるから。