娘よ。#心お弁当(毎週ショートショートnote)
とっとー。
頭の上のあたりで声がする。寝ぼけ眼で見やると娘が何やら手に持っている。
んーなんだ?
とっとーにね、これあげる。
鼻先にぐいぐいとプラスティックの固い感触があたる。
黄色い箱に白い折り紙がくしゃくしゃに丸められ、黒い線が塗られている。
なんだ、これ。
娘が満面の笑みでおじぎりだよ!と言う。
そっかあ。おにぎりか。
とっとーおじぎり美味しい?
丸められた紙玉を受け取り、ムシャムシャと言いながら口に運ぶ。
おいしいなあ、世界一だなあ。
残さず食べないとダメよ。
その口調はあいつ譲りだ。
父さん。
起きて、時間だよ。
おお、とくぐもった返事を被った布団の中から返す。
父さん。
お弁当作ってあるから。
カレンダーには17に大きな赤い特大の花丸。
あいつの命日に式を挙げるという。
喧嘩しても絶対忘れないからって。
弁当箱をそっと開けてみる。
オムライスの上に特大のケチャップのハート。
これからはオレじゃなくあいつに美味いやつを作ってやれよ。