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愛しかないの【失楽園ぼっち】(毎週ショートショートnote)
咲子さんは白粉を欠かさない。
深い皺の中に入っていてもそのままだ。
咲子さんはゆらゆら揺れる大きな椅子にクッションを幾つも置いて座っている。
寒かろうが暑かろうが窓を開けて通る人を見ている。
咲子さんはゆらゆらしながら外を眺めている。
葉がすっかり落ちて枝の間から日差しが差し込む窓から通りすぎる人を見るのはいいものだ。
こうして待っている人がいるのはいいものだ。
咲子さんはそっと頬に触れる。
皺だらけの白粉に、薄く桜色に染めた唇。
こんなお婆ちゃんになってしまった。
一度だけだ。
あの人と触れ合ったのは。
生涯にたった一度だけ、過ちと呼ばれたくない夜を過ごしたのだ。
因果は巡る。
孫娘の連れ合いになる人の祖父があの人だったなんて。
もう記憶も薄れていたあの人。
サキコさん。
でも初めて会った時と同じように呼んでくれた。
あの人はヘルパーの人とゆっくりこの道を歩いてくる。
その瞳はもう追憶しか映さない。
サキコさん。
わたしはここにいるわ。
ひさしぶりに参加させていただきました!
失恋墓地。
いけるかなぁ。