回想【チャリンチャリン太郎】(毎週ショートショートnote)

鈴木太郎先生。
スポーツ刈りでたいていジャージとサンダル姿。
いつも何かやりそうな悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

授業中、ふと先生の声が止まると皆が顔を上げる。
雨降ってきたから授業はおしまい。
こっから静かに自習な。
そして教室を静かにまわりながら、生徒のポケットからハンカチを抜き取ったり、ギリギリまで近づいて驚く生徒を見て大笑いする。

今日はわたしのポケットにチャリンチャリンと小銭を入れてきた。
皆がくすくす笑う。
この間、プリント刷るの手伝ってもらったからな。
え？そんなことしてないよ。
と言いかけると先生がシッ、と目で言う。
時々、たまに先生はそうやって小銭を入れてきた。
イタズラ好き。
皆んなそう思ってた。

でもね、知ってたよ。
生活のためにバイトして、昼休みにジュースを買わなかったわたしに先生がそうやってくれたこと。
悪戯のようにプレゼントしてくれたこと。

わたしね、今、教師をやっています。
ありがとう。
太郎先生。