テスト:第三話

翌日の昼休み、お昼ごはんを済ませた私は昨日の一年生を求めて教室に行った。周りの生徒は皆、私と距離を取っていることがわかる。私には敵わないことを生物として心得ているようだ。そうかと思えば完全に無視する訳でもなく、私を横目で見てくる。気持ち悪い。わざわざ警戒心を示してくれてありがとう。詰まらなさがまた私を苛立たせた。

重い口を開き、私は教室の入り口にいた子に話しかけた。

「あの、あそこにいるあの人、呼んでほしいんです」

心の中は上から目線のスタンスでいるよう心掛けている。しかし、私は腰を低くして取り繕う。声のトーンを上げて、どうでもいい相手に対してまで八方美人な振る舞いをしてしまう。だからこの悪癖を治せない限り、目の前の男が頬を赤らめる事態が今後も続いていくのだろう、そう思う。

周りは更に異様な静けさの中で、ざわめく。

私、言切結衣(ことぎりゆい)が特定の男を呼ぶことは、この学校では隕石が落ちたことと同じくらいの衝撃を与えるらしい(ちょっと盛ってる)。ショックを隠せない顔がいくつも、視界の端々に見えていた。

彼は少し驚いた顔を見せ、その後私から目を逸らした。

「ここだとアレだし、移動しよう」

彼の方から気を利かせて移動を提案された。

教室から出て特に会話もなく目的地へ着く。人気のない第二理科室。冷たくて静けさの漂うここは、彼の雰囲気に似ていた。

そして、彼の言葉が沈黙を破った。

「俺、藤野前夜(ふじのぜんや)。昨日言うの忘れてた。わざわざ探してくれてありがとう」

「・・・・・・・・・・」

「渡したやつ、気に入ってもらえた?」

「・・・・・・・」

「・・・なんだ、結構緊張してる?」

「・・・いや・・・・」

「怖がらせてしまってたなら、ごめん。別にそういうつもりじゃなくて」

「あの、聞いてもいい?」

「うん、いいよ。何?」

「私に何でこんな糞どうでもいい石なんて渡してきたの?」

「糞どうでもいい・・・っふふ、あはは、それって、俺のことそう思ってるってこと?」

彼は嬉しそうに笑いを響かせた。

「質問に答えてよ」

私は厳しく彼に問い詰める。

「ん~、と。なんか言切結衣ってどんな人間なのか、気になったから。だって、超モテてるらしいじゃん。なんでなんだろ~、そう思って反応見たかった。単に好奇心?まあ、何でもいいでしょ理由なんて」

「好奇心に従ったのね。で、あなたの望みは私がどういう人間なのか、知ることだと」

「うん、そうだよ。・・・怖いな、なんか結衣の目、見抜いてくるみたいで」

「な、結衣って呼び捨て?!」

つい驚きを隠せず、感情的になってしまった。

「あはははは、そんなとこでキレるんだ、割と沸点浅いの?結衣」

「・・・別に何でもいいわよ。とにかく、これ返す。目障り」

「言い方キツッ!何でよ、可愛いじゃんソレ。結衣に似合うよ」

イライラする。何が似合うだ。簡単に言いやがって。

「可愛い禁止、それ、今度使ったらもう口きいてやらないから」

「えっ・・・ごめん。・・・でもそんな怒ることかな?」

藤野前夜は僅かな怒りを見せた。

「可愛いって言われるの、好きじゃない。あんたのことよく知らないですって言ってるようなものよ。私への表現としては0点。もっと観察して特別感を与えろ、以上」

「・・・・・・・・・・・!」

藤野前夜は驚きを隠せず目を見開き、そのあと噴出した。

「特別感、そっか、わかったよ・・・精進します・・・!ふふふ」

満足そうに笑って涙を滲ませる。そうやって私は誰かの都合のいい遊び相手になっていく。私は皆のおもちゃなのだ。

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