テスト:第十三話
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藤野君からもらったインカローズのネックレスを眺めていた。
今日は雨。 教室の中でも雨の匂いが漂う。 英語の授業中、退屈しのぎにこの醜い桜色のインカローズに青ざめたガラス窓から差し込む青い光を映していた。 訳の分からない単語が飛び交う教室の中で、私は空想に飛び立ってしまっていた。
「言切さん、その手に持っているもの、授業に必要なものかしら?」
うざいティーチャーが私に話しかけてきたところで、私の空想はパチンと消えた。
「・・・・・・これは大切なものです。私、これがないと授業に集中できなくて」
「あら、そう。集中力アップのためのお守り? それは結構なこと。 じゃあ、今の問題解けるわよね?」
「いえ・・・・なぜか授業の理解度には効果ないかもです。」
「・・・・・あら、それは残念。もう少し頑張ってね、あなた英語のテスト、学年最下位よ」
クスクスクス・・・・・・とクラス中に鳴る。 こんなことが可笑しいのか。 クラスメイトのツボがよくわからない。
こんなクラスの英語の授業よりも、私は藤野君と会うことが楽しみになっていた。 いつしか私には、いつも会える人がいた。 藤野君は私を嗤わない。 藤野君は私を怖がっている。 それが私にとって新鮮であり、興奮を呼ぶのだ。
恋愛は存在しない。 この世は弱肉強食。 私は藤野君を倒す。 藤野君をめちゃくちゃにしてやる。 精神も、そしていずれは肉体も・・・。
昼休み、藤野君とお弁当を食べる約束をしていた。 私は校舎外にある桜の木の下のベンチに足を運ばせた。
「お待たせ、藤野君」
「やっほー結衣。なんか元気だけど、いいことでもあったの?」
「藤野君と会うの楽しみにしてたから」
「・・・・・・・えぇ」
少し驚いた顔をする藤野君。
「意外だな、結衣が俺と会う事を楽しみにしてくれてるってのをストレートに伝えてくるなんて」
少し照れている様子だった。私から視線を外す時、彼は自分の喜びを隠したがるようだ。
「私、最近藤野君を好きになったの」
「・・・・最近?どうして?」
私は上機嫌にフフッと鼻で笑った。
「藤野君は私を恐れてくれてるから♪」
彼はそれを聞くと、更に驚いた表情になり、おなかを抱えて笑った。
「俺が?結衣のこと?・・・・なんで恐れられることに喜ぶの?意味わかんねぇ・・・!」
「だって。藤野君は私を認めてくれたってことなんだよ」
伝わらない、かな。藤野君は優しい人だから・・・。
「まあ、最初から結衣のことは認めてるも何も、好きだから。でも、なんでそんな感じになっちゃうわけ?」
「え?私、おかしい?」
「うん、変だよ。とっても。でも、結衣はそのままでいて欲しいな」
藤野君は優しく微笑んだ。なぜだか、私の頭を撫でてきた。
「や、やめてよ!」
私は拒否した。
「え、ごめん・・・嫌、だった?」
「嫌だよ・・・だって。私が子供みたいじゃん・・・」
「・・・あ、もしかして子どもみたいな扱いされるのが嫌なの?」
「当たり前でしょ。藤野君はそうじゃないの?」
「俺は・・・子どもとして結衣を撫でたわけじゃないんだけど」
「・・・保護欲、じゃない?私をそのままでいさせたいって感じたんだけど」
「・・・・結衣・・・」
藤野君の目は遠くを見つめた。お弁当のタコさんウインナーを口に運びながら、遠くの景色を。
「結衣のことは永遠に手に入れられない気がする・・・」
ため息をついて、再びタコさんウインナーを口元に運ぶ。
唇にタコの顔が触れる。いつになったらタコは食われるのだろうか。間違った、タコではなくそれはウインナーである。