テスト:第二話

艶のある長く腰まで伸ばした髪。女の子として一番大切だと思う。こんなにも美しい髪を持つ私は友達が誰一人としていなかった。女子の会話にはついていけなかった。所謂世間話は私の退屈を増幅させる。女の子の話は大抵愚痴か恋バナか食べ物かファッションか音楽かアニメかゲームかその他なの。私、そんなものに付き合ってられない。どうしてそうジャンクな話題が好きなのかしら。もっとお堅くて怖くて美しくて面白くて頭が冴える話がいいの!どうせ関わるならその顔面に水でもかけて、冷静に話し合いたいわ。この退屈極まりないクラスの将来像のこととかさ。

そういう私も愚痴ばっかり。あーあ、私に話しかける勇気があったらなぁ。友達・・・欲しいなあ・・・。

「あ、帰宅部がちゃんと帰宅した。お帰り~♪」

夕食を作っている叔父さんのいじりは最早飽き切っている。つまり、日常のスープに溶けてしまったのだ。それに比べて今晩の夕食は一段と香ばしい匂いがする。カレーライスか。しかも叔父さんのカレーは本格インド派。その香りに釣られて、鍋の中の具材たちに挨拶をしに行く。

「美味しそう~♪お腹空いた!あと何分?」

「また俺を無視して。叔父さんより飯のほうが大事なのか結衣は・・・」

「うん、そうに決まってんじゃん」

「酷い奴・・・俺は召使いか!」

「いつもご馳走様、召使いさん♪」

そう言いながらも、叔父さんは嬉しそうな笑顔を浮かべている。

誰もがそう。私を甘やかす。

なぜこんな性格になってしまったのかというと、まあそれは多分、叔父さんが育ててる時に甘やかしたからなんだろうけど。

部屋に入って、宿題を出す。チラ、と見える目障りなインカローズ。

名前も名乗らずに去ってしまったあの人。一体、なんなのだ。

まあいいや・・・。

そう思ってインカローズのネックレスを、机の上に置いた。

・・・目障り。なのに、ここに置く自分は、何なのだろうか。

これを視界に入れると、気が散る。宿題の邪魔。私はそれを小物入れに入れた。

宿題、数学か~。苦手だなあ数字は。数字はシンプル過ぎる。勿論、シンプルな数学は美しいのだが、もうちょっとホラ、ごちゃっとホラ、自由に答えを出させてよって思う。苦手意識を持ってしまった結果、私の数学のテストの点数は壊滅的であった。

うーん、答えの決まってることを考えさせるなんて、この上なくつまらないじゃない。どうして大人ってこんなつまらないことをさせるの?大人は馬鹿なのね、きっと。

恋愛でも友達でも家族でも先生でもそう。結局のところ、遊び上手は床上手。シンプルに遊び方さえ心得ておけば、きっと困ることなんてないわ。

なんて宿題や勉強のつまらなさに対して弁を並べる。これも挨拶なのだ。こうでもしなきゃ宿題に付き合ってられない程、私は退屈を避けることに専念してしまう。

退屈。毎日同じことの繰り返し。リピート。リピートしていく毎日。

ああ・・・でもそうか。インカローズ。そこに滲み出てくる君の気持ち悪さ、不気味さこそ、今の私が求めていたもの。都合の良い解釈がまた、私を退屈から救い、私を縛り、快楽へ誘う。

インカローズの彼は私と遊びたがっている。恋愛という幻想。彼は恋愛など存在しないことを心得ているのだろう。「好きです」「愛しています」等の公文を述べる無意味さ。他の男はわかってない。恋愛という要素について解明できないまま、そう、ただ単に興奮をそのまま発散してくる。好きとか愛とか宝石とか花束とか、そういう呪文や物質に頼り切ってしまう。それはあまりにも、詰まらないものだと気づいていない。ああ、阿保らしい。そんなことなら他の人を当たってくれ。私にそのような呪文は一切通用しない。だって私には「解放の呪文」があるのだから。

彼もまた、同じなのだろう。私と同じく退屈している。そんな目をしていた。

そして私は、このインカローズよりも、その虚ろな彼の目に惹かれていた。いい目をしている。今にも消え入りそうな虚ろ。恋などしている目ではなかった。凍り付くほどに冷め切った、しかしわずかな光の差す・・・。そうか、彼こそ私の遊び相手に相応しい。退屈な私の気晴らしとして、私と関わったことを後悔させてやる!

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