テスト:第九話
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さっきまでセックスを吐くほど嫌っていた男が、恋の病にかかると一転し性行為を求めていた。なぜ、人はこうも簡単に都合のよい方向に傾いていくのだろう。理性などは本能の下僕であることがよくわかる。
「コーヒー飲んだら少し落ち着いたよ・・・」
藤野君はそう言ってまた根暗な感じに戻った。
「今度は結衣が、恋愛は存在しない理由を話してよ」
いいだろう。
「恋愛感情は自分が認識しなければ、ただのドーパミンの分泌に過ぎない。つまり恋愛という名称は後付けのもので、しかも肯定的に捕らえられた暴力行為である。」
「暴力?随分と過激なこと言うなぁ」
「そもそも生殖行為は命懸けの殺し合いであり、本来なら生存本能によって警戒し避けるもの。しかし、それでは子孫を残すという生物としての機能が果たせない。そこで、相手の脳及び自分の脳を麻痺させる為に体はあらゆる反応を起こす。例えばさっき君が私に優しいという言葉を投げかけた。私は優しいとは何なのかについて考えている隙に君はハグしてきた。私を傷つけない程度の弱い力で。私はそれに対して警戒心を緩めた。敵意を感じさせないために人は弱さを演出する。言い換えれば、私は藤野君と戦っても勝てる程度の強さで殴られたと言える。人に触れる、しかもその腕に包囲されることは逃れられない状況と言えるだろう。しかしそれでもハグをしたいのであれば、逃げられることを演出し、体を通して教えなくてはならない。」
「・・・そんなこと考えてたの?結衣」
「当たり前でしょ。そうでないと寧ろ、おかしいと思うけど」
「そんなこと考えてたら、恋愛なんてできないでしょ・・・」
「恋愛がないのよ。私には」
藤野君は啞然とした顔でため息をついた。
「そんなことで思考を埋めてたら確かにできないよ。・・・楽しいの?」
「楽しいとか楽しくないとかより、目の前で起こってることの現象を解き明かすほうが重要よ。生存に勝つためには」
「何と戦ってるんだか・・・」
騙されたくない。私の脳みそに。
騙されたくない。言葉の魔力に。
騙されたくないのだ。もう二度と・・・・・・。