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スタートアップは複線型人事制度をいつ導入すべきか?

スタートアップが成長するにつれ、避けては通れないのが人事制度のアップデートです。

特に、「マネジメント vs. スペシャリスト」というキャリアパスの問題は、多くの企業がぶつかる壁です。

「優秀なエンジニアを管理職にしたら、本人もチームも苦しんでしまった…」
「マネジメントに興味がない人が昇進の道を閉ざされ、結局転職してしまった…」

こうした"あるあるな失敗"を経験した企業がたどり着くのが、複線型人事制度です。

これは「マネジメント職」と「専門職」の2つのキャリアパスを用意する仕組みですが、導入タイミングを誤ると、かえって混乱を招くこともあります。

では、スタートアップはいつ複線型人事制度を導入すべきなのでしょうか?この問いに正解はありませんが、ポイントに絞って考えを深めていきましょう。


創業〜シード期(10人以下)で複線型人事制度は必要か?


結論から言えば、このフェーズでは複線型人事制度は不要だと考えます。それ以前に、そもそもこの段階では、組織づくりよりも事業の立ち上げが最優先です。

役割は固定されず、「エンジニアが営業もする」「デザイナーが採用も担当する」といった状況が当たり前。特定の職種にこだわるよりも、チーム全員が事業の成長に全力を注ぐことが求められるものと思います。

もっと言えば、そもそもこのフェーズでは、評価制度すら明確でないことがほとんどではないでしょうか。

複線型人事制度を導入する以前の問題で、まずは「誰が何をやるべきか」よりも「どうすれば事業が軌道に乗るか」を考えるべき時期です。

このフェーズの人事の皆さんは、「将来的には制度を整えないと…」と不安になるかもしれませんが、焦って仕組みを作りすぎると、事業のスピードを損ねることもあります。

まずはシンプルなルールで運用し、成長とともに徐々に制度を整えていくのが賢明なアプローチだと考えます。


シリーズA〜B(10〜50人規模)で複線型人事制度は必要か?


シリーズA/Bと従業員人数は状況によって異なる前提で、これぐらいの人数規模でも、まだ複線型人事制度は早いと考えます。

ただし、少しずつですが、その必要性の予兆が出てくる時期であるのは違いありません。

この頃から、事業の拡大とともに組織の輪郭が見え始めます。メンバーの中には、「プレイヤーとして専門性を極めたい人」と「組織をまとめる役割を担いたい人」の違いが明確になってきます。

しかし、ここでよくあるのが「なんとなくの昇進」が招く悲劇です。

私が過去目撃したありがちな失敗例としては、プレイヤーとして優秀な人を、なんとなくマネージャーにしてしまうケースです。

いざマネージャーに昇格してもらったものの、「管理業務ばかりで、本当にやりたい仕事ができない…」と悩むことに。結果として、本人のモチベーションは下がり、チームも迷走し、最悪、離職に至るケースも珍しくありません。

また、スタートアップにありがちですが、マネージャーを増やしすぎて、"役職インフレ"が起こるケースです。

例えば、 「◯◯リード」「シニア◯◯」など細かい役職を作るものの、実際の権限や役割が曖昧になり、意思決定がスムーズに進まなくなる。結果、組織運営が複雑になり、事業成長を妨げてしまうこともしばしば。

こうした問題が出始める時期だからこそ、「将来的に複線型人事制度が必要になりそうだ」という認識を持ちつつ、焦らず準備を進めることが大切です。

例えば、次のような問いを考えることが、この先の組織づくりに役立ちます。

・専門職のキャリアパスをどう定義するか?
・どのような成果を評価すべきか?
・導入することでかえって組織が硬直化しないか?

このフェーズでは、まだ大掛かりな制度設計は不要ですが、まずは「適性に合ったポジションを柔軟に設計する」ことを意識すると、将来のスムーズな移行につながるものと考えます。


シリーズC〜IPO準備(50〜200人規模)で複線型人事制度は必要か?


このタイミングから、複線型人事制度の導入検討が始まるものと思います。

というのも、この時期は、事業が安定し、組織の中に「マネジメント職が合わないが、貢献度の高い専門人材」が増えてくるからです。

安易に導入すべきとまでは言えないものの、この段階で制度を整えないと、次のような問題が起こりがちです。

問題① マネジメントに進まないと給料が上がらない
結果として「昇進=管理職」という構造になり、優秀な専門人材が評価されにくくなる。特にエンジニアやデザイナーが「技術を極めたいのに、評価されない…」と感じ、転職につながるケースが多い。

問題② 評価基準がバラバラで、社内に不公平感が生まれる
マネジメント職と専門職の評価軸が異なるため、一律の評価制度では対応しきれなくなる。結果として、「なぜあの人が昇給して、この人は評価されないのか?」という疑問が社内に広がり、不満が蓄積する。

では、もし複線型人事制度を導入するとなったら、どう進めると良いでしょうか?

このフェーズでの理想的なアプローチは、まずは一部の職種(例えばエンジニア職)から試験導入すること。いきなり全社適用するのではなく、小規模な成功事例を積み重ねることが重要です。

具体的には、次のポイントが鍵になると考えています。

ポイント① 「マネジメント職」と「専門職」の役割を明確に定義する
ポイント② 専門職にも、管理職と同等の評価・報酬を設定する
ポイント③ 社内でのキャリアパスの事例を積極的に発信し、定着を図る

他にも細かく見ればポイントはさまざま存在すると思いますが、改めて大切なのは、複線型人事制度の導入初期は、制度そのものへの理解が十分でないことが多いです。

そのため、社内コミュニケーションをしっかりと設計し、どのようなキャリアの道があるのかを丁寧に伝えていくことが成功の鍵になると考えています。


IPO後・成熟期(200人以上)で複線型人事制度は必要か?


ここまで来ると、"あるのが当たり前"という企業の方が多いものと思います。

この規模になると、専門職とマネジメント職の区別は一般的になり、多くの企業が複線型人事制度を導入しているのではないでしょうか。

また、制度が定着すると、「マネジメントをやりたくないのに昇進させられる」といった問題は起こりにくくなります。

ただし、このフェーズでは「形骸化しないように運用をアップデートし続ける」ことが重要だと考えます。

私も過去に、専門職の評価制度が機能せず、優秀なエンジニアが『昇給のために仕方なくマネジメントに行ったものの、仕事が合わずに退職してしまった』というケースを見たことがあります。

複線型人事制度に限りませんが、仕組みは一度導入すれば終わりではなく、組織の成長や市場環境の変化に合わせて柔軟に調整する必要があります。

今回の例で言えば、

・専門職の評価制度が機能しているか?
・役職に対する責任や期待値がズレていないか?
・メンバーのキャリア意向と制度が合っているか?

などをチェックポイントにしながら、定期的に制度が機能しているかどうかを見ることが大事だと考えます。

制度があるだけでは意味がなく、運用が実態に即していなければ、不満が蓄積し、優秀な人材の流出につながります。そのため、定期的なフィードバックを取り入れ、社内の状況を踏まえてアップデートを続けることが成功のカギだと思います。


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