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人事は必ず知るべき「降格」の考え方とは?

多くの企業では「昇進」は大きなテーマですが、「降格」についてはあまり積極的に語られることがありません。

降格は「基本的に行わない」「行うとしても例外的なケース」という企業が多いのではないでしょうか。

しかし、変化の激しいビジネス環境において、社員の役割や成果に応じた適切な処遇を実現するためには、降格もまた選択肢の一つとして考える必要があります。

多くの人事にとって目を背けたくなるポイントですが、改めて内容を見ていきたいと思います。


降格はネガティブなものなのか?


降格という言葉には、どうしても「評価を下げられる」「キャリアの後退」といったネガティブな印象が伴います。

私も過去、降格とまでは言わないものの、リーダーの役割を降りることを命じられ、数ヶ月、モチベーションが下がり、苦しい思いをしたこともあります。

しかし、冷静になって考えれば、企業が求めるスキルや役割が時代とともに変化する以上、一時的に役割を見直すことは、むしろ適切なキャリア設計の一環だったと振り返っています。

事実、当時は正直、過度なプレッシャーのもとでパフォーマンスが低下していることを自覚しており、一歩引いて俯瞰できたことで、再び再浮上できたと捉え直しています。

だからこそ言えるのは、降格を「リセット」ではなく「適材適所の再配置」として捉えることです。

そして、従業員の将来にとって何が中長期的に見て幸福なのかを考えることが重要だと思います。


論点① 降格のルールは明確に定められ、周知されているか?


降格は処遇の引き下げを伴うため、従業員にとって大きな不利益となります。そのため、労使間でのトラブルが発生しやすく、適切なリスクヘッジが必要です。特に重要なのは、降格のルールを明確に定め、周知徹底することです。

もし、降格がブラックボックスの中で決定されると、納得感を得ることが難しく、不信感を招く原因になります。そこで、具体的な降格要件を就業規則などに明記し、社員に公開・周知することが不可欠です。

例えば、しばしば見かける方法としては、複数回の評価結果を要件として設定するものです。具体的には「半期3回分の評価の平均点が○○点未満」といった基準を設け、降格の是非を決めていきます。

こうした方法を取ることで、降格リスクの予見可能性が高まり、社員自身も自分の状況を把握しやすくなります。また、ルールを明確にすることで、会社としても改善の機会を提供できます。社員にとっても単発の評価ではなく、継続的な基準を設けることで巻き返しのチャンスを与えられるでしょう。

なお、人事として、参照しておきたい法的根拠もいくつか示しておきます。

詳細は専門家にお任せしますが、労働基準法第15条(労働契約の内容)と第16条(解雇予告)は特に重要になると考えます。また、降格によって賃金や労働条件に大きな変更が生じる場合は、第24条や第28条の内容も関連してくるものと思います(もし他に参照すべき法的根拠があれば教えてください)。

いずれにせよ、まず大事なのは、降格のルールを明確にし、事前に周知することです。そうすることで、トラブルのリスクを低減し、従業員の納得感を高めることができるものと考えています。


論点② 賃金テーブルを公開し、説明責任を果たすことに努めているか?


降格などで賃金が下がる場面では、「なぜこの金額になるのか」が分からないと、従業員は不安や不満を感じてしまいます。企業としては、こうした疑問や不信感を減らし、安心して働ける環境をつくることが重要です。

そのために欠かせないのが、賃金テーブルの透明性です。

賃金テーブルを公開することで、「どの役割にどの程度の報酬が支払われるのか」が明確になり、従業員は自身のキャリアの見通しを立てやすくなります。「昇格するために求められるスキルや実績は何か」「降格すると給与がどの程度変動するのか」といった点を事前に知ることで、不安を軽減し、納得感を持ちやすくなります。

降格は誰にとっても受け入れがたいものですが、変化の激しいビジネス環境では、役割や成果に応じた適切な処遇を行うことが求められます。だからこそ、「どのような基準で判断されるのか」をあらかじめ理解できることが大切だと思います。

企業側にとっても、賃金決定のプロセスを明確にすることは大きなメリットがあります。

「なぜこの給与なのか」といった疑問に対して説明しやすくなり、不透明な評価への不信感を防ぐことができます。これがないと、「評価が恣意的ではないか」「経営側の都合で決まっているのでは」といった疑念が生じ、エンゲージメントの低下や離職につながる可能性があります。

とはいえ、「賃金テーブルを公開するのは難しい」と感じる企業も多いかもしれません。しかし、それは賃金体系そのものに説明しづらい点があることの裏返しではないかと思っています。

もし公開しづらいと感じるなら、まずは自社の賃金体系が合理的で説明可能なものになっているかを見直すことが先決だと考えます。一度にすべてを開示するのではなく、等級ごとの報酬レンジを示す、昇降格の評価基準を明確にする、といった段階的な公開を進める方法もあります。

給与は、働く人にとって生活の基盤であり、最も重要な関心事のひとつです。だからこそ、納得感を持ってもらえるよう、可能な範囲で透明性を高めることが、従業員の安心感につながります。「なぜこの給与なのか」という問いに自信を持って答えられる企業は、従業員との信頼関係を築き、結果的に強い組織をつくることができるはずです。


論点③ 上司からのフィードバックは足りているか?


「正直、この評価には納得できません」

面談の場で、部下にそう言われた経験はないでしょうか。

評価する側としては、「成果に基づいて適切に判断した」と思っていても、部下にとってはそうではありません。評価への納得感は、単に制度が整っているだけでは生まれないのです。むしろ、評価を受ける本人が「自分の成績がこう評価されたのは妥当だ」と思えるかどうかが重要です。

特に厳しい評価を下さなければならない場面では、面談でいきなり「期待に届かなかった」と伝えたのでは、部下は当然納得しません。日頃から具体的なフィードバックをしていないと、「そんなの聞いていない!」と言われてしまいます。

実際に、私自身もかつて「伝えたつもり」になっていたことがありました。あるメンバーに対して「もっと主体性を持って動いてほしい」と言い続けていたのですが、ある日「主体性を持つって、具体的にどうすればいいんですか?」と聞かれ、ハッとしました。そのとき初めて、自分のフィードバックが抽象的すぎて、相手に伝わっていなかったことに気づいたのです。それ以来、「何を、どのように改善すればいいのか」をより具体的に伝えるよう意識しています。例えば、「会議では自分の意見を先に述べたほうがいい」「この業務は、まず〇〇さんに確認する前に、自分なりの案を作ってみるといい」といった具合に、行動レベルで伝えるようになりました。

とはいえ、上司も忙しい中で部下一人ひとりに細かくフィードバックするのは簡単ではありません。言うは易く行うは難し、だからこそ、日々の業務の中で無理なくフィードバックを続ける工夫が必要です。

例えば、1on1の時間だけでなく、日常の業務の中で短いフィードバックを積み重ねることを意識してはいかがでしょうか。Slackのやりとりや、ミーティングの後のちょっとしたタイミングで、「さっきの発言、すごく良かったね」「この資料、ここをもう少しシンプルにすると伝わりやすいよ」といった声かけをする。これだけでも、期末の評価時に「いきなり言われた」と感じさせることが減ります。

つまり、評価する側として、「期末に一度伝えればいい」という考え方ではなく、「日々の関わりが評価の納得感を生む」という視点を持つことが大切です。

評価は、ただの数字ではなく、部下のキャリアやモチベーションに直結するものです。評価制度の透明性を高めるだけでなく、日々のフィードバックをどう充実させるか。これが、納得感のある評価を実現するための鍵になるのではないでしょうか。


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