『若き見知らぬ者たち』生きるという事に命をかけてみたい
被写体の感覚を舐め回すように捉えるカメラワークが光っている。
匂いたつようなリアリズムがスクリーン全体に浸透し、
その気持ち悪さすらも、目を逸らすことなくずっと見続けていたいという衝動に駆られる。
空間設計が巧みだ。
カメラの奥行きを活かし、
地面の感触までもが伝わってくるような設計だ。
芝居場にいる人物たちはもちろん、
背景を行き交う人々や車の動きすら、
リアリズムをさらに強化するものに仕立て上げている。
この手間ひまを惜しまない贅沢な空間設計の丁寧さは、
予算がいかに潤沢であっても真似する事は難易度が高い。
重要なのは、この意識と具現化するチームの技術こそが、
リアリズムの本質を舞台に、各役者に宿らせている事だ
ボロボロの靴や、演技の隅々まで生き生きと表現されており、
その正確で真摯な設計は、
過酷で苛烈な現実と観客との緩衝材ともなり得る、
と同時に、
母親や亡き父親、主人公の兄弟をはじめとする登場人物たちが、
この設計によって包み込まれる愛情そのものの空間にもなっている。
しかし、このような愛情のツケは、セリフでもあるように、
いつしか溜まっていくばかりだ。
現実の厳しさと対峙する瞬間が、何度となく訪れる。
それでもなお、信じるしかないと、そう思わざるを得ない。
震えるような良いカットがあまりにも多く、
その一つ一つが生きることへの凄まじい覚悟を突きつけてくる。
ブルーハーツの、
生きるという事に
命をかけてみたい、
が8角形のオクタゴンに響いていた。