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「恋人とデートするときは男性が経費を払うようにしてください」

あるとき、外国から自分の国に旅行に来た人に伝えたい、自国で気をつけてほしい(これはした方がいい、あるいはこれはしないようにした方がいいなど)ことについて文を作っているとき、あるスリランカ出身のとても真面目で穏やかな人に「すみません」と呼ばれた。

作文が正しいかどうか、適切かどうかを自分で判断するのは難しいので、この文を読んでわかるか見てほしいとのことだった。

そうして見せられたノートに、彼の真面目さが顕現したような丸くピチっと整列された字で、「恋人とデートするときは男性が経費を払うようにしてください」と書いてあった。

文法的な間違いはないし、言いたいことはたぶん伝わっているけど、「経費」がなんともいえない事務作業感を出してくる。

仕事で依頼されてデートに行き、やはりデートとはいえ仕事なので表面的な、ぎこちない会話を交わし、会計だけはいやいや私が出しますよ、いや私が、というラリーを2往復くらいして、それで男性が出すことになるけどそれはポケットマネーではなくもちろん会社の経費。みたいなことまで想像できた。

問題はやはり「経費」という言葉選びなので、ここは「経費」というよりは「デート代」とか、もしご飯を食べてるなら「食事代」とかがいいと思いますよ、と伝えた。

ちなみに、デートにかかる費用のことを日本語で何と言うんだろう?とGoogle翻訳で彼の母語であるシンハラ語から日本語に変換したところ「経費」が結果として差し出されたらしい。まあ言いたいことはわかるけど、惜しい。

金額とかそのお金そのものとか、お金周りの表現は生活に密接しているので触れる機会も多く、日本で生活している人ならすぐに覚えるイメージがある。でもそのわりに、意外と表現や言葉選びの選択肢が多く、繊細な部分もある。

例えば「光熱費」「生活費」などの費シリーズ、「入場料」「サービス料」などの料シリーズ、そして「家賃」「運賃」などの賃シリーズ。バリエーションがあるわりに、こういうものは案外互換性がない。家賃は家賃であって家費とは言わないし、博物館の入場料も入場賃とは言わない。これはもうある程度ただの組み合わせの問題だと私は思っている。

それで言うと、さっき私が代わりに提案した「代」は比較的幅広いジャンルをカバーしてくれる。「食事代」「ガソリン代」とか、「水道代」「ガス代」もいけるし、「電車代」「バス代」とかもいける。しかし家賃のことを「部屋代」と言っても通じない気がするし、やっぱり例外の壁にはぶつかってしまう。

あとはとにかく日本に来たばかりでまだ賃も量も代も知らない段階からすでに家賃は払わなければならないし、学費も納めなければいけない。
そういうときに飛び道具的に「~のお金」が使われることが(私の周囲では)多い。

「学校のお金払ってください!」とか、「部屋のお金はいくらですか?」「アルバイトの1か月のお金は?」とか。

メリットはとにかく使いやすくシンプルなこと、
デメリットは一度「~のお金」の使いやすさに慣れると「賃」や「料」や「代」を積極的に使わなくなり、より使いこなせなくなること。

「~のお金」の魔力は強いので、もう「賃」や「料」や「代」のステップに進める人にむやみに使ってしまわないよう、こちらも気をつけなければならない。

そしてもしスリランカに行き将来現地の方とデートする機会に恵まれることがあったら、男性が払うという規範があるということも覚えておく。


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