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短編小説集。

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自作サイトにて公開していた短編小説を詰め込み。
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記事一覧

パールピンクの魔法

 そのままの自分を曝け出して生きている人間なんて、この世にはほとんどいないんじゃないかなぁ、って思う。
 十四年しか生きていないボクだってそうだ。
 ボクはきっと普通じゃないんだな、って気がついたのは、小学校の高学年になった頃だったと、思う。気がついたけど、誰にも言えなかった。言いたくなかった。
 言ったところで、多分誰も解ってはくれないような気がしたから。どれほど言葉を尽くしても、どれほど時間を

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光を浴びて

 クリーム色のカーテンの隙間から零れる朝日は、喜びに満ちて輝いていた。だがその輝きさえも、寛子には酷く薄っぺらで白々しいものにしか感じられなかった。
「午前七時三分です――」
 憔悴しきった声で告げる壮年の医師の額には、ほつれた前髪が張り付いていた。それがいっそう疲れた雰囲気を作り出している。
 手を尽くしてくれたことは、ちゃんと解っていたつもり。でも、やっぱり思う。どうして、助けられなかったの―

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ぜんぶながして。

 カーテンの隙間から陽射しが零れている。蜜季(みつき)は何気なく目覚し時計に視線を投げて、それからほうっと時間をかけて深呼吸した。七時三分。まだ、こんなに早い。
 昨夜は――正確には、今朝、かもしれない――遅かったから、絶対にいつもの時間に起きられるはずはない、と思っていた。でも、それでいいと思った。だから、目覚ましのセットもせずに、ベッドに潜り込んだのに。
 朝って、ちゃんと間違いなく、狂いなく

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金曜日のうたうたい

 どうして、あたしは立ち止まったんだろう?
 自分でそんなことを考えながら、あたしはただ、駅前の植え込みの陰で歌う彼を見ていた。
 やっとの思いで仕事を終わらせたあたしは、たった今、最寄り駅から出てきたところだ。何とか潜り込んだテレビ局の、ADのアシスタントみたいなことをしながら、必死に生きる毎日。夢は――いつかプロデューサーになって、小さな日常を丁寧に追いかけたドキュメンタリーを作ること。平凡と

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ホットレモネード

 ……ん?
 ああ、いけない。
 いつの間にか眠っていたらしい。もうこんな時間か……。
 よ……っと。年を取ると椅子から立つのも億劫になったなぁ。よっこらせ、と。
 寒さが一段と身に染む季節になったなぁ……。

 あれ? お客様ですか? すみませんね、もう仕舞いなんですよ。それにあなたのような若い娘さんがお探しのものは、ウチにはないと思いますけどね。ええ? またまたァ。お世辞はいけませんよ。
 あ

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月の輝く夜だから

 ベランダの手すりに身を乗り出して、希和美(きわみ)は一心に満月を見つめていた。満月が綺麗な夜だもの、絶対にあいつはここにやって来る――そう自分に言い聞かせながら、じっと月に見入る。月は太陽ほどに強い光を放つわけではない。それでも目の奥がじんわりと痛くなってきて、希和美は瞼を閉じて目頭をきゅっと、強く押した。
 そして再び満月を見る。
 だって、約束したから――絶対あいつは来る――何度も何度も希和

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ブランコ揺れて

 ボクはどうしてもブランコに乗りたかった。
 でも、みんな順番だから、って、並んで待っていたんだ。ちゃんと並んで待っていたボクの目の前で、ブランコに乗っていた女の子が、ぽん、と降りた。
 やったぁ。
 ボクは心の中でそう叫ぶと、ブランコに駆け寄ろうとした。駆け寄ってそして、鎖を掴もうとした瞬間の出来事。
「かりんが乗るのー!」
 大きな声がしたかと思うと、一人の女の子が駆け寄ってきて、ボクの手の先

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土曜日には花束を。

 土曜日には小ぢんまりとした花束を買うのが、すっかり習慣になってしまっていた。わたしは今日も、あなたを想って花束を買う――。

「いらっしゃい。今日は何にします?」

 顔見知りになってしまった花屋の娘さんは、屈託ない笑顔を浮かべる。それにつられるようにわたしも軽く笑んで見せて、それからそっと、顎に手を沿わせる。何かを考えるときのわたしの癖。それをからかうあなたを急に思い出して、反則だ、とわたしは

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見えない鎖

 学校から帰ってくると、嬉しそうな顔をリビングから覗かせて、ママがあたしを呼んだ。あたしは部屋に向かいかけた足をリビングに向けなおして、ママのところまで行く。

「何?」

 あたしはちょっと面倒だったけど、ママに尋ねてみる。ママはにっこりしたかと思うと、あたしの鼻先に手を突き出した。

「じゃーん!」

 正確には、あるものを握り締めた手を、と言うべきだろうか。ママの手の中には、桜色をした、小さ

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籠の鳥

 身体の自由が奪われれば奪われるほど、心は自由に大空を翔けた。

 私はそんな時、声を限りに歌い続けた。朝も、昼も、夜も。

 私の歌声は格子のはめられた窓を通り抜け、高く響き、低く唸り、多くの人の耳に届いたという。ある人はぼうっとした様子で私の歌声に耳を傾け、またある人は落涙とともに私の歌声を聴くという。だが私には、そんなことは関係なかった。心が自由に求めるままに、歌って、歌って、歌った。

 

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かみさまのこども

 大きな木に身体をもたせかけて、生い茂る茨の隙間からわずかに覗く青い空を、ラナは見るともなく見ていた。ここに来てからもうどれくらい日が経ったのか、それすらラナには解らない。空腹も度を越して、何も欲しいとは思わなくなった。ただ、ひどく喉が渇いていた。

 ぼんやりとした頭で、ここに来てから何度となく考えていたことを、ラナはまた考えだした。考えたからとて答えが与えられるわけでもないのに。それでもラナは

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ここにある真実

 深流(みる)は大きな窓辺に座って、ぼんやりと外を眺めていた。
 いつか、ここから誰かが助け出してくれる、そう信じていられたのも、うんと幼いころだった。
 十五歳になった今では、もうそんな空想に耽っていられるほど、子どもではいられなかった。あと半年もすればここを出て、次には身障者用の施設に入所することになるだろう。
「深流」
 呼ばれて、深流は振り返る。はっきりとは見えないが、淡いピンクの服を着た

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雨に濡れて

 じとじとと雨が降り続いた夜のことだった。
 週の頭に、もうそろそろ梅雨が明けるだろう、という予報を聞いたと思ったが、その週は見事に梅雨前線に支配されていた。
 ざっ、と一時に沢山の雨が降るわけでもない。周期的に降ったり曇ったりするわけでもない。本当にじとじとと、細かい雨が静かに静かに降り続いた。朝も昼も夜も、ずっと。

 仕事が長引いて、やっと会社を後にしたのは八時半を回ったころだった。週末だと

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さがしもの

 人気のまばらなホームのベンチに、ぽつんとひとり座っている少女がいた。
 年齢は十歳くらいだろうか、帆布でできたデイバッグを背負い、腕にはB4サイズの厚手のスケッチブックをだいじそうに抱えていた。首からペンダントのようにボールペンをぶら下げて。
 喫煙所を探しながらホームをうろついていた孝輔は、何だか不思議な空気を身にまとうその少女に、一瞬だけ気を取られた。が、すぐにホームの端にある喫煙所に目をや

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