書籍【リスキリングは経営課題】読了
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◎タイトル:リスキリングは経営課題
◎著者: 小林祐児
◎出版社:光文社新書
今までの延長ではもう戦えない。状況はどの企業も同じのはず。だからといって、すぐに勉強をとはなれない。
そもそも日本人は、大学を卒業して社会人となってから以降は「学習する習慣」がついていないのだという。
これは諸外国との比較について、データとして数字でハッキリと表れている。
個人的な感覚としてもこれは合致していて、私自身も特に20代の頃は、自分から進んで勉強しようとは全く思っていなかった。
周囲もほとんど勉強していなかったし、勉強家として見本となる先輩もいなかった。
だからと言って、そんなに陽気に毎日遊んで暮らしていた訳ではない。
それなりに真面目に(地味に)暮らしていたはずだが、勉強せずに何をしていたかも思い出せない。(大したことをしていなかったのだろう)
その頃でも本は読んでいたが、完全に小説のみ。
当時はAmazonもない時代で、基本的に書店で特に何も考えずに小説を購入していた。
棚を回ればビジネス書もあったはずであるが、まったく視界に入っていなかったのだろう。
自分自身、勉強とか学習を意識するようになったのは、35歳以降の話だ。
その時に出会った直属の上司の影響なのであるが、そこで初めて「ビジネス書というジャンルがあるのか」と認識した次第。
上司が読了した本が回覧されてくるので、回し読みしている内に、自分でもビジネス書の面白さにハマった感じだ。
外部のセミナーを探して受講しようと思い出したのもその頃だ。
自ら進んで研修を受けるなんていうことは、それまでは皆無だった。
やはり自分の実体験を基にして考えてみると、周囲からの影響無くして「学習の習慣」に辿り着くのは相当に難しい。
その時の上司との出会いが無かったら、今でも勉強する習慣が身についていない可能性があると思うと恐ろしいくらいだ。
それだけ「学習する」ということは、ハードルが高いことでもあるし、逆に身につけると「何て視野が広がることなのか」と気付かされる。
私の場合はビジネス書を読むのが趣味になってしまっているので、「学習」と言えるかも微妙であるが、文章を読む事が習慣化されただけでも、意味があることだろうと思っている。
改めてであるが、これだけ識字率も高く、Amazonが業界破壊しているとはいえ、街中に必ず書店が存在し、書籍へのアクセスがものすごく容易な日本。
そういう意味での「勉強」へのアクセスもハードルは低いと思うのだが、他国の人は勉強しているのに、日本人だけできない理由は何なのだろうか。
著者は分析の中で「なんとなく」という空気が支配していると記している。
本当か、と思ってしまうが、心の奥底では不思議と納得できる部分もある。
周囲がやっていないのに、自分だけドンドンと勉強するのが憚られる雰囲気は確かに存在する。
1人だけ抜け駆けするのを良しとしない日本の悪しき慣習だろう。
個性を重視し、他人は他人、自分は自分、と一線を画している海外の文化とは、相当に異なっている。
これは著者の「イノベーションは迷惑」という指摘にも合致しているように感じる。
結局、今までのことを今まで通り行うことは、「みんな仲良く」という日本特有のスローガンに非常に合致する。
何となくみんなで合意形成され、確実にそこに「現状維持」というバイアスが敷かれていく。
ただの雰囲気でしかないのだが、これが事の本質のような気がしてならない。
こんな雰囲気の中で「イノベーション」を持ち出しても、大多数の人が受け入れられないのは当然だ。
これは本当に悩ましい課題で、この状況から組織の中でイノベーションを生み出すことは不可能に近い。
私自身も、会社の中でイノベーションを起こすべくチャレンジしてきたつもりだが、結果的に何も残せていないという無念がある。
もしイノベーションを起こしたいのであれば、既存組織の中でも、モチベーションの高いメンバーだけを集めて、その中から生み出すしかないという。
至極当然の話であるが、そもそも「モチベーションの高いメンバー」というのが希少人材のために、社内で仲間になってもらうよう集めるだけでも困難を極める。
結局本書内で提示してくれている解決策は、横並びで「みんな仲良く」をするのであれば、企業内大学のような場所を設置して、横並びで勉強させればどうか、という案だ。
1人で勉強出来ないし、みんなで勉強すれば怖くないということか。
これだけ文化として根付いたものを変えていくのは相当なことがないと難しいが、こんな単純なアイディアだけで全てが解決することはあり得ないだろう。
しかしながら、他に方法が思い付かないのも事実。
企業内大学については、現状私の勤務するグループ会社内ではすでに実行され、設置されている。
現実的に相当なコストをかけており、各研修プログラムについては相当充実していると思う。(もっと実施している会社から見たら「この程度?」と思うかもしれないが)
しかしながら、まだまだそれが活用できているとは言い難い。
社員の意識として「ここから学んで業務に活かす」、もしくは「スキルアップして他部署に異動する」というところまで至っていない。
言葉として出さずとも、「学んで何になるの?」という雰囲気が今でも残っているのが現実。
研修は目に見える成果が出にくいために、踏み出すことを躊躇している部分もあるような気がする。
完全に抜け駆けを気にして、周囲を見渡している様子が伺える。
しかしながら、結局最初の一歩を踏み出さないことには始まらない。
しかもすぐに結果は出にくいし、継続するしか道はない。
これはまさに筋トレと同じで、単発で行っても筋力が付くはずがないのと同じ事だ。
手軽な筋力UPの方法も現実的には存在しないのだが、継続して行えさえすれば確実に成果が出る。
(「筋トレは裏切らない」という合言葉があるくらいだ)
つまり近道はなくて、遠い道のりをコツコツと進む方法しかないから、特に1人ではどうしても一歩を踏み出す勇気が出ないのだろうと思う。
「早く行きたければ1人で行け。遠くへ行きたければ共に行け」とはアフリカの諺だったか。
研修担当者としては実に歯がゆいところだが、希少な仲間を少しずつでも集めて、まずは最初の一歩を踏み出し、わずかずつでも進んでいくしかない。
残されたサラリーマン人生の時間は少ない。
だからこそ覚悟を持って臨む必要があるのだと、心から思っている。
(2023/9/13水)