【目印を見つけるノート】513. ベロのワッペン
おとといぐらいから、ノートに書き物をしています。手で書くというのは最近滅多にしませんので、時間がかかりますね。これは私だけの話でしょうけれど、画面で入力するより手書きの方が後で見返しやすいです。
このnoteも投稿後にざっと見直したら、あとは見返すことはほとんどありません。手書きのノートだと、どんな乱筆でも後で見られますね。
この前、授業のときにノートを取らなかったという話を書きましたが、授業が受けられない年齢になってからは意外と書いていたりします。メモ程度ですけれど。
新聞もときどき買うようになりました。以前は取っていましたが月ぎめだととにかく溜まってしまうので、気分が向いたときだけ。最近は特にアフガニスタンのことが気になるので……ミャンマー、ロヒンギャのことも。今のようなパンデミックの中で社会の混乱はさらなる苦難です。望ましい形で、人が大切にされる形でおさまってほしいと望んでいます。
話題として落ち着いた後も事態としては続いていることが大半ですが、継続して追っていくのは自発的にしないとできません。アフガニスタンは……内乱に旧ソ連が軍事介入した紛争から少なくとも語り起こす必要があるでしょう(1979年~)。
すべてのできごとは、パーツパーツで独立しているわけではなくて、時間の流れがあります。私も、パーツパーツのできごとを見ているとき、流れを見落としていることは多々あるなと感じています。特に、ネットを見ているとバッタの大群のように同種のニュースが画面を埋めて、世の中ではそれしか起こっていないのだろうかと錯覚しそうになります。
最近はテレビも見ていないなあ。
ということで、たまに新聞を見るとこう、七夕の飾り付けのようにうまく結んだりできることもあるのです。ただ、何となく薄くなったようで少し残念ですね。
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今日の気分を表す参考文献のように記事のリンクを貼ったり、YouTubeを引っ張ったりしていますが、それらが引用不可になっていることがしばしばあります。できるだけ公式かそれに準ずるものを選ぶようにはしているのですが、有料になっている例もあります。はじめは削除したり差し替えたりしていたのですが、アーカイブをひとつひとつ掘り返していく時間がないので、最近はそのままにしています。
だいぶ前のnoteを見てくださる方もいらっしゃってとても嬉しいです。
もし、そのような事例にあたってしまったらごめんなさい。
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そういえば、中学生の頃、The Rolling Stonesのベロマークのワッペンを、バーガンディのコーデュロイのジャケットにくっつけたことがありました。上野のアメ横で買ったのですね、確か。
以下は、そこから派生した想像です。
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「おまえさぁ、そこにワッペンはヘンじゃない?」
彼のことばに私は口をきゅっとゆがめた。
クラスの数人で町の遊園地に至るメインロードを歩いていたときのことだ。夏休み最後の週の土曜日、このメインロードでは昼から出店がいっぱい出ていて、人でごった返している。あんず飴、焼きそば、イカ焼き、ラムネ、たこ焼き、チョコバナナ、ヨーヨー、小物しか釣れない紐クジ、倒れない射的、山盛りのビー玉。
私たちも誰からともなく集まって、屋台の輝きに満ちた夏休みの終焉を盛大に飾ろうとしていたのだ。
しかし、彼のクールな一言はダルマオトシのように私を崩れさせた。
「えー、だってさ、胸につけるエンブレムとはちょっと違うしさ、背中に着けるには小さすぎるし、腕しかないじゃんよう」
私は口をとがらせて、必死に弁明した。
「うーん、キャップとかデニムの太ももに付けた方がいい大きさかもな。左腕にポツンとあるのがちょっとな……」
確かに適切な配置を考えると、その通りだ。
私は焼きそばの盛られたスチロール皿を持って、うつむいてしまった。それを見て、脇で見ていた女子が言う。
「えー、どこにワッペン付けたっていいよねえ。カッコいいよ」
私はフォローしてくれたことに感謝しつつ、エンジン全開になった。
「この前ね、大阪のロックフェスがテレビでやっていて、それに出ていた人たちがみんなで『ホンキー・トンク・ウィメン』をやってたんだ。それがすごくかっこよくて、ストーンズのレコードを上野でお父さんに買ってもらったの。その帰りにアメ横でワッペンを見つけて……」
うん、うんと女子は聞いてくれて、彼は黙って聞いていた。すると、別の男子がさらに追い討ちをかけてくる。
「でもさぁ、8月の末にコーデュロイは暑いよなあ」
私を含めて一同は黙りこむ。
反駁しようのない、正論だ。
私はまたうつむいてしまう。
いたたまれない気持ちになってしまったのだ。じっと手に持った焼きそばを眺める。急に食欲がなくなってきた。私は暑いよなあと言った男子にスチロール皿をひょいと渡す。
「なんだよ」
「食欲がないから、あげる」
そして私はその場を去ることにした。
「どうしたの?」と女子が言う。
「暑いから、かき氷買ってくる」と私は無理に笑顔を作ってかき氷の屋台のほうに歩きだした。人をかき分けて歩きながら、私はシュンとしていた。
「着てこなければよかったかな。きっとあいつなら分かってくれると思ったのに……」
それでも、かき氷の屋台に着くといくらか気分は収まった。確かに、8月にコーデュロイは暑いや。
「レモンひとつ!」
屋台のお兄さんが年代物のかき氷機を回すと、シャシャシャと音を立てて氷がスチロールの器にふわりと重なっていく。そして、黄色い液体を振りかける。
それを受けとると、私は屋台の脇のスペースに陣取って一人かき氷を食べようと思った。クラスメートの輪の中に戻る気になれなかったのだ。
「食べたらそのまま帰ろう」
そして、サクサクと氷を崩してパクリと口に運ぶ。
キンと頭に響く。
辺りを見回すと、もう日も暮れて屋台の灯りがキラキラと輝いている。行き交う人々の姿がそれに照らされてパタパタと変わっていく。幻灯機みたいだな。
すると、幻灯機に見たような顔が映る。
彼だった。
「おい、おまえ何で一人で食ってるんだよ」
私はちょっと驚いて、また口をとがらせる。
「暑苦しいからね、私がいると」
「すねたこと言ってんじゃねえよ。それ、ちょっとよこせ」
彼は私のスプーンをスッと取ってしまった。そしてレモンのかき氷をシャクっとすくって自分の口に入れた。
間接キスじゃん!と私が抗議する前に、
「おっ、うめえ」と彼はにっこり笑った。
私はどうしたものかと思いながら、なりゆきをただ見ているしかない。彼は自分の着ている真っ黒なTシャツをパタパタとはたきながら、「黒いTシャツも、暑いんだよ」とつぶやいた。
確かに、と私は納得してうなずく。
「『ホンキー・トンク・ウィメン』はいいよな。渋くキマってるよな」
私は大きくうなずく。
彼はニヤリと笑う。
「みんなも気にしてるからさ、戻ろうぜ」
彼の言葉に、私の機嫌はすっかり治ってしまったようだ。ワッペンの左肩をちょっとあげると、私はレモンのかき氷がこぼれないように注意しながら、みんなのところに戻った。
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夏の風物詩は今年もお預けでしたね。
ということで、
THE ROLLING STONES『Honky Tonk Women』
それでは、お読みくださってありがとうございます。
尾方佐羽
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