【目印を見つけるノート】1688. 久しぶりの四行詩です
どこにでも
（四行詩８連と６行）
新宿の喧騒から抜けた
暗い森の片隅に座りこむ
名無しのひとの 背中に
あなたのことばは います
一緒に暮らしているけれど
とてつもなく さびしい
恋人たちの 流し台にも
あなたのことばが います
ミュージアムの壁に貼られた
はにかむ女性のポートレイト
写したあなたの目と
あなたのことばが います
高田馬場の 静かな教会の
スタジオで あなたの声と
すれ違った ひととき
あなたのことばが います
原色の絵本を 読んでいたら
もけらもけらが 跳ねていった
ぶぶじ とれび きゃむきゅ
あなたのことばは います
東に木星 南に土星が輝く
戦場の子どもは 眠ってほしいと
コーヒーのお湯を 沸かす
あなたのことばが います
〈ばらはあかい すみれはあおい
おさとうはあまい そうしてきみも〉（※）
決してあまいばかりではないけれど
あなたのことばは います
冬がひょいとやってきて
献立に豚汁しか 選びようのない日に
去ったしらせを 目にする
あなたのことばは います
そうありたいと 願っても
そうなれないと 折れたりもする
そうだとしても 理解する
あなたが どこにでもいるのではなく
あなたのことばが
どこにでもいるのです
（11月19日しるす）
※『よりぬきマザーグース』（岩波少年文庫）より
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谷川俊太郎さんの訃報を知りました。
個人的に、
詩人は自称するものではなく（芸術家などと同様に）、活動の中で周りがそう呼ぶのが理想だと思っています。
僭越ですが、
谷川さんはまさにそのような方だったと私は思います。
心からお悔やみ申し上げますとともに、
ご冥福をお祈りいたします。
尾方佐羽