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【Concert Report】オーケストラ・アンサンブル金沢第487回定期公演
オーケストラ・アンサンブル金沢(以下、OEK)の定期公演をお聞きくださった音楽評論家、ジャーナリストの方々に当日の演奏について寄稿していただく「Concert Report」。第487回定期は指揮者引退を発表した井上道義OEK桂冠指揮者との最後の共演となりました。どんな公演だったのか、ぜひその当日の「熱」を感じてください。
井上道義がオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との最後の共演に選んだ曲は、ショスタコーヴィチの交響曲第14番。4人の詩人による11曲の「死」を題材に扱った作品で編まれた交響曲で、編成は2人の独唱歌手に弦楽オーケストラと打楽器というもの。極限までそぎ落とした引き算の世界で、オーケストラと歌がほとんど別の動きをしながら一つの音楽をつくり上げる点に特色がある。ソプラノのナデージダ・パヴロヴァとバスのアレクセイ・ティホミーロフは両者とも望みうる最高の共演者で、縦横無尽の歌唱で作品世界を表現していた。オーケストラの普段の1回の定期公演というものは、終わったときに「できたことも、できなかったこともあるけれど、また次回をお楽しみに!」となって続く性質のものだと思っているが、今回の「ファイナル」公演も至芸的な何かというより、普段の定期のようでもあり、井上らしい軽やかさで「世の中にはまだまだ知らない面白いことがたくさんあるよ」と教えてくれた公演だった。最後まで全身全霊でチャレンジする姿を見せてくれたマエストロ。それはまさに、本当に偉大な人物はどこまで行っても完成するということはないという老子の「大器晩成」という言葉どおりの姿だった。西村朗「鳥のヘテロフォニー」、アンコールの武満徹「他人の顔」のワルツと合わせ、井上の持ち味と人間味にあふれた公演は大いに沸いた。あらためて最大級の拍手と感謝を捧げたい。(文=潮博恵/音楽ジャーナリスト)