学校でのICT活用に必要なお金について
ICT支援員は学校でのICT活用を推進するために学校で働いています。
ICT活用を推進するためには、ICT機器が必要です。しかも次々に新しい何かが出るので、それをそろえるのはとっても大変。ICTにはお金がかかるけどそればっかりに使っていられない、というのはよく聞くお話ですね。では、何が一体絶対に必要なお金なのでしょうか。ICT支援員を研究する立場で考えてみます。
1 インフラに関するお金
ICT機器を授業で活用しようと思ったら、インターネットへの接続は欠かせませんね。そういうわけで、「授業で使いたいときに使いたいだけスムーズにネット接続」は絶対に必要なインフラです。
それを活用するためにここをケチってはなりません。それだけは絶対言えます。
まず考えるのは
・全教室にwi-fi工事を行うかどうか
です。インターネット接続は割り切ってすべてセルラーモデルとするかとか、いっそセルラーモデルをそろえるくらいならBYODをめっちゃ認めるとか。そうでなければ、wi-fiのための工事が必要です。
その際には、「学校(あるいは鉄筋の建物で細かく区切られたたくさんの部屋すべてで使えるような)でのwi-fi設計をしたことがある業者」に設計を依頼するほうが安心です。ここには全力でお金をつぎ込むべきです。
せっかくwi-fi工事を行っても接続が不安定、というのは少し前には非常によく聞く話でした。さすがに最近はあまり聞きませんが、授業で使えないネットワークにお金を払う意義はありません。先進的な導入自治体でうまく行っている自治体の方法を徹底的に模倣するのが確実な方法の一つです。
・最大で何台まで同時接続するか
一人1台のタブレットを整備するなら、その学校の全校児童生徒数分の負荷が学校の入り口にあるルーターにかかるわけですね。センターサーバー方式で、自治体全体で外への出口が1つ、ならさらに学校数ドン、です。その部分を考えて設計しないと、大変なことになります。とにかくインターネットはスムーズに動かないと授業で使えませんから。
2 導入機器に関するお金
これはもうその自治体で「子どもにどういう力を付けさせたいか」を考え、それを実現するための授業で最も使いやすい機器を導入するべきだと考えます。実際には予算の制約であれが欲しいけどどうしても入らない、というのはあると思いますが、まず出発点はそこからです。導入すれば勝手に子どもが使う、というのは半分あたりで半分外れだと思います。子どもが勝手に使いたくても、先生が使わせてくれなかったら使えないのです。
これからの社会を生きる子どもたちは、パソコンあるいはスマホ等のICT機器と切り離された生活をするのは困難でしょう。むしろそれらを積極的に使いこなし、「ググればわかるようなことはgoogle先生に聞くけど、考えなきゃいけないことを考える」経験をたくさん積ませてあげたいところです。
だとすると、授業も教えこみだけではなく(今まさにその転換をされている先生がたくさんいらっしゃいますね)議論したり考えたり発表したり、という手段が取られるようになります。それを、どのICT機器を使えばより手足を伸ばして使えるのか、ということを考える必要があると思います。
そのための、ソフトウェア費用、設定費用、各校での展開作業費用ももちろん必要です。
3 運用に関するお金
設計も頑張ったし導入時の設定もできるだけ学校に使いやすいようにした。だから、運用は自力で頑張れ! というのはICT機器を死蔵させる大きな理由の一つです。直感で操作して即授業ができるようなICT機器はなかなか入らないので、使おうと思った時に出た疑問を即座に聞けるヘルプデスク体制の整備や、使おうと思う人を育成する研修費用、学校で寄り添いながら授業での的確な使い方を伝えてくれるICT支援員費用などなど。
と書くと、「なんで先生だけそんなに運用に手厚いんだ。自分たちは自力でやってる」勢が出てきたりするのですが、先生はICT機器が使えるだけじゃダメなんです。ICT機器の使い方を子どもに教え、子どもと一緒にそのICT機器を使って授業をしていかないといけないのです。
「小学生の算数くらい教えられる」ということをよく聞きますが、自分でできることと子どもに教えることは全く違う能力を必要としています。
小学校2年生にかけ算を教えてみてください。かわいいですから。ニイチガニ、ニニンガシ、と覚えさせた後、「じゃあミカンを2個ずつ3人に配ったら全部で何個か式を書いてごらん」と言って2+2+2が出てくるのは間違いではないですが、かけ算が日常に結びつくような教え方ができていない、という結果です。先生はそれをこれでもか、というようなびっくりするような方法で上手に教えられます。そのために必要なのは、授業の内容に関する深い理解と、授業の方法に関する膨大な知識です。
それに、テクノロジー、ICT技術を取り入れてやっていくためには先生だけではなく、授業の内容や授業の方法に合うICTを理解したICT支援員がいたほうがよりよい環境を作ることが出来る、と私は思います。
私がこの考えをもやもや持っていたころであったのが以下のTPACK理論です。TPACK Explained より引用
英語だとちょっとわかりにくいかもしれないので日本語版は以下の通り。
教員養成及び現職研修における「技術と関わる教育的内容知識
(TPACK)」の育成プログラムに関する予備的研究4P目より引用
③の技術に関する知識がICTに関する知識だと考えられます。ICTに関する知識も、教育そのものに関する知識も、教科内容に関する知識も、それぞれ独立して持っておくのではなく、重なり合う部分があって、それら3つが重なり合った部分に到達できるとめっちゃいいことあるよね、ということです。先生方は①と②のプロです。だから、ICT支援員は③の知識を⑤や⑥として持っておいて、先生をご支援していくと、教育が良くなると思ってやっています。そういうわけで、先生だけに全部全部全部背負わせるのではなく、学校にいろんな専門家の大人が入って、先生と一緒に子どもたちが楽しい授業をする、というための費用が運用に関する費用だと考えます。
だって学校の先生が①や②について深い理解をするのにどれだけ勉強しなくてはいけないかなんてえらいことです。その上にさらにあれもこれもそれも、と追加してきたのが今までですよね。箸の持ち方をしつけろとか挨拶ができないのは学校が悪いとか道いっぱいに広がって登下校するのは学校の指導が必要だとか、金融商品に関する教育が必要だ税に関する教育が必要だ環境も英語も国際理解もぜーんぶぜんぶ必要だ……というのは、必要だと思いますが、それを先生だけに背負わせるのが限界に達している、と思うわけです。
なので、ICT機器を手足のように使い活用するための、先生のパートナーに費用をかけるべきであると思います。この記事はICT支援員研究が専門の私が書いてるのでICT支援員のことばっかりになっていますが、チーム学校を構成する、先生以外の大人、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、部活動指導員等もそれぞれの専門を活かして先生のパートナーとして働くために費用は必要です。
「ICT機器を学校で活用する」ために必要な費用は、機器代だけではないのです。高いお金を出して買った機器を使えるようにするための、人的支援にもぜひともお金をかけてほしいものです。インフラにお金をかける、は何となく理解してもらいやすいのですが、運用にお金をかける、についてもっと理解が広まるといいなと思います。
トップ画像は Nattanan KanchanapratによるPixabayからの画像 を拝借しました。投資したお金から芽吹く力のイメージにぴったりでした。