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夏の秘めごと

その一

陽ざしがかくれようとしている
しずかにきらめく夕ぐれの光は
空と大地のあいだから
生まれた雲を照らしだす

夜の方に投げられたかげが
不確かにゆらめいている
かえってきた夏の想いを
ささやきかわすように

……風が運んでくる
湿った土のにおいを
緑を含んだ草木のかおりを

ゆるやかに夜のおとずれるなか
言葉のない声が流れていく
夕ぐれの風にのって……

その二

昼のおわりを告げる夕陽は
山の向こうに沈んでしまった
あらたな光をまち望む
空に明るい闇をのこして

ほほをくすぐる風のいき先には
ためらうように月が浮かんでいた
化粧をしていない姿に
はじらう乙女のように

しかし——とめどなく零れる
寂しげで 柔らかい光は
生きものに夜の夢を語るのだった

こころを優しく抱きしめる
世界のささやきに耳を澄ませた
夏の風と光にかくれたものは……


2020年6月25日作

一言メモ

今作はソネット組詩の2作目で、夏の景色をうたったものです。夏と言っても、夏特有の烈しい日が照りつける昼の風景ではなく、鮮やかな色彩を浮かべる黄昏の風景と生暖かさを残した宵の風景を時の流れに沿って描いています。夏と言えば、昼か黄昏時に焦点が当てられがちですが、宵にも秋とは違った寂しげな美しさがあります。そんな宵の景色を、メジャーな黄昏の風景との連続的な変化の中で描くというのが今作の一つの趣旨です。よって、題名の「秘めごと」の一つ目は、まさに夏特有の宵の景色のことを指しています。実はもう一つ「秘めごと」に当たるものを散りばめた積もりなのですが、皆さんは気づかれたでしょうか。コメントを頂けると幸いです。

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