ダンスフロアの秩序
大学時代の同級生4人で飲んでいた夜のこと。
「この前さ、職場の飲み会ですごいお店行ったんだよね。ミラーボールが回るダンスフロアがあって、みんなめっちゃ踊ってんの!」
「あー、あそこね。俺も行ったわ。昭和〜て感じだよね。名前もさ、21世紀だっけ?すごいよね」
なになに?踊れる?昭和?
大学時代からすすきのにはお世話になっているけれども、そんなお店は聞いたことがない。
そろそろこの個室居酒屋では宴もたけなわ状態になってきた。
広いダンスフロアに飛び出そうじゃないの。
さすが同級生。ノリも似たような者同士、考えていたことも一致していたようで、21世紀とやらに繰り出すことに。
◇
「男性は4,000円、女性は3,500円。無制限飲み放題になりまーす」
ラーメン横丁の隣、ビル8階、ムワっと香るインセンス。
昔ながらの映画館にあるような受付で代金を支払ったらそこは21世紀。
一際、光り輝くそこがダンスOKなエリアで、目をこらすと周りをソファ席が囲っているらしい。
壁は鏡張りでどこまでがお店の実態なのかがまだよくわからない。
そうこうしているとシンディ・ローパーの「Girls Just Want To Have Fun」がかかりだして、もうこれアガるしかない状態。
赤ワインを一杯いただいたら、フロアデビューだ!
◇
このお店経験者という友人に連れられて、いざフロアへ。
アクリルカーテンを隔てた向こう側では生バンドが音を奏で、美しいディーヴァが高らかに歌い上げている。
頭上には噂のミラーボールがキラッキラ。
友人はもうすっかり酔っているのか最前列まで行っちゃって、とても楽しそうに踊っている。
私といえばやや後ろでとりあえず音に身を任せてみた。
前にTVで見たボックスステップもどきの足並みもやってみる。
クラブとやらも未経験なのにいきなりフロアとは!
ここぞとばかりに周囲を観察してみた。
なるほど。皆さん年齢は50代くらい、男女比だとやや男性多めかな。
常連さんという風情で、それぞれが音に身を委ねている。
中にはマイケル・ジャクソンの本気コスプレの方もいて、どんな曲でもマイケル風にステップを刻んでめちゃめちゃかっこよかった。
そんなお客さん達に混じって、私も自分なりに楽しんでいると、隣に踊るおじさまが来た。
「一緒にどうかな?」的な感じの雰囲気だったので、「よっしゃ望むところだ(よくわからないけれど)」状態で向かい合わせになった。
◇
1曲ご一緒させてもらってわかった。
ダンスフロアでペアになった場合は互いに心を配りながら、目配せしながら進行していくんだ。
盛り上がるサビ前はさあどうぞと言わんばかりに相手を引き立てる。
引き立ててもらったら、次はどうぞと譲ってみる。
なるほど、ダンスフロアでの出会いがきっかけで付き合いました、はすごくあり得る話なんだな。
2曲目。おじさまが声をかけてきた。
「良い動きだよ。ただ若いからちょっと動きが早い。盆踊りみたいになっちゃうからもっとゆっくり動いてみて」
ほうほう、レクチャーしてもらいました。
こんな感じ?とやってみると、そうそう!と褒めてくれる。
素敵なお方だ。
若いねなんて言ってもらえたものの、2曲立て続けに踊る(しかもマスク付)と結構、体にこたえる…。
おじさまに別れを告げて自席に戻る。
◇
ソファ席から改めてフロアを観察する。
生演奏タイムからDJタイムへと突入していてアース・ウィンド&ファイアの「Let’s Groove」なんかがガンガンに流れる。
お客さんやDJの「今、めっちゃ楽しい!」が伝わってきて、それに惹かれるように次から次へと新たなお客さんがフロアへと向かっている。
楽しいの相乗効果。グルーヴが過ぎる。
こんなに楽しい!が集まる空間、いつぶりだろう。
最前列をキープしていた友人が息も絶え絶え、ドリンク補給のため、一瞬、席に戻ってきた。
「踊ってる?一緒に踊ろうよ!」
その言葉を合図にまたグルーヴィーなフロアへ。
終電1本手前まで「ダンシング・ヒーロー」を踊ることとなった。